ウォルトが死んだとき彼が武器を持っていたら、ギャング達の刑罰は軽くなったでしょう。
もしウォルトが生き残っても、ギャング達の為に自分が獄中で死んでいくことになります。
彼が丸腰で殺されることでギャング達の刑は長くなり、タオ達から引き離すことが出来たのです。
また、朝鮮戦争で殺した人々を生涯忘れることはなかった彼は、命を奪うことがどういうことかも十分理解していたでしょう。
丸腰の老人を殺したギャング達は、その後大きなトラウマを背負って生きて行くことになるのです。
タオに銃を見せたのも計算
タオを閉じ込める前、ウォルトは銃の手入れをしていますが全てはタオを閉じ込める為の演出です。
ウォルトの中で自分のラストを飾るシナリオが出来上がっていた、といえるでしょう。
彼の作戦は見事成功を収めたのです。
「パーフェクト・ワールド」を彷彿させる
1993年公開の「パーフェクト・ワールド」はケビン・コスナーとクリント・イーストウッドが出演していました。
実はこの映画のラストも絵葉書を取ろうと胸に手を入れたブッチ(ケビン・コスナー)が、射殺されて死んでしまいます。
本作のラストシーンは「パーフェクト・ワールド」を彷彿とさせる名シーンとなりました。
アメリアでは、胸に手を入れる=銃を取り出そうとしているという認識が至極当然のことなのでしょう。
ウォルトは全てを計算してタバコを吸おうとしたのです。
殺される恐怖に直面した時の行動をウォルトは知っていたので、ギャング達が間違いなく自分を撃つことを確信していたのでしょう。
差別用語?差別していないウォルト
『グラン・トリノ』には数々の差別用語が登場してきますが、特定の人種を差別している訳ではありません。
全ての民族を同じように差別用語で罵っています。
頭でっかちの27歳の童貞で、老女の手にぎり、迷信深い彼女達に永遠の命を約束している
引用:グラン・トリノ/配給会社:ワーナー・ブラザース
神父さえも罵るウォルトは、差別という概念はおそらく持っていなかったのではないでしょうか。
自分以外の存在のほとんどに、気に入らない部分があったのです。
劇中では平等に差別することで、全てが同じ存在であることを示しています。
男の命の締めくくりを描いた作品
本作はウォルトの人生録です。
男がひとりになった時何を思うのか、彼がどのように自分の人生に幕を閉じたのか……。
愛車「グラン・トリノ」はウォルトの人生を象徴する存在であり、彼の心が生き続けるという光なのかもしれません。
タオはこれから、ウォルトのようなタフな人物に育っていくことでしょう。