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2010年公開の「マチェーテ」は、ド派手なアクションシーンや生々しい暴力シーンが満載のバイオレンス作品です。
次々と出てくるカーチェイスや爆発シーン、銃撃戦や刃物での切り合いに圧倒されます。
またその描写もかなり残酷です。
ですが単なる暴力のみを描く内容ではなく、移民問題がストーリーの核となっています。
「マチェーテ」は麻薬、政治家の汚職等をリアリティたっぷりにみせる社会派映画。
元々は「グラインドハウス」というアンソロジー映画の中で実在しない映画の予告編として撮られたものです。
その予告編を実際にロバート・ロドリゲス監督が映画化したという作品で、B級要素もたっぷりと詰まっています。
ロドリゲス監督はメキシコ系アメリカ人なので麻薬やメキシコ移民問題がリアルに描かれているといえましょう。
観終わった後にアメリカ社会の抱える闇について考えさせられたという方も多いはずです。
ここではアメリカの麻薬や不法移民問題、タイトルの意味等に焦点を当てていきます。
アメリカの不法移民問題をリアルに描く
メキシコ警察と麻薬組織
マチェーテは常に一貫してゆるぎない正義感を持っています。
メキシコは麻薬組織が暗躍する国です。
メキシコ北部のある街では麻薬組織を恐れるあまり警察署の署員が総辞職するという事態がおこったこともあります。
組織と癒着している警察官も多数いるといわれており誰が組織のスパイかわからない状態がデフォルトです。
しかしマチェーテはそのような状況においてあくまでも正義感と信念を持って行動しています。
メキシコの麻薬王のアジトにのりこみ、正面から対峙しようとなると死を覚悟しなければなりません。
実際に考えられない残虐な殺人が行われているのが麻薬組織の世界です。
不屈の精神の持ち主
自分自身の死をかえりみず正義をつらぬくマチェーテは不屈の精神の持ち主といえるでしょう。
強い精神の持ち主であると同時に強い肉体の持ち主でもあります。
極右の政治家
マクラフリンはどうしてあそこまで強固に移民排除を訴えるのでしょうか。
アメリカでは人種差別は全くなくなったとはいえずまだ残っているのが現状です。
メキシコと国境問題でもわかるように不法移民もどんどん流入してきています。
そのため、アメリカ市民の中にも不法移民を排除しようとする勢力は一定数あるでしょう。
しかしそれはマクフラリンの信念というより、選挙の票を集めるための発言ではないでしょうか。
ブースがマクフラリンをあやつっているようにも見えます。
ベッドの下に卵を割る理由
メキシコの卵のおまじない
ルースがマチェーテに行った行動にはどんな意味があったのでしょうか。
卵をマチェーテの顔に沿って動かしたあとベッドの下に卵を割るというのは不思議です。
この謎めいた行動はメキシコで行われているおまじない。
卵を相手の体に沿わせた後ベッドの下で割り、翌朝卵の黄身がかたまっていると不幸が卵に移されたと考えます。
強いばかりではなく優しい一面もあるルース。
組織のリーダーとして多くの仲間を率いるためには強さと同時に優しさも必要なのだと思います。
卵の黄身を目玉にたとえる
これは、Evil eye(イーヴィルアイ)(悪意の目とも邪視とも訳されます)と呼ばれるおまじないです。
現在もメキシコには呪術品のみをあつかうソノラ市場という呪術品専門の市場があります。
メキシコのある地は古代アステカ文明などが栄えた地であり、古代は呪術がもっと盛んに行われていたのでしょう。
日本でも平安の昔から呪いや祟り、神罰や化け物をさまたげるためのおまじないはよく行われていました。
古代から色々な国であらゆるおまじないが行われてきています。
そしてそのような昔からあるおまじないが現代においても行われています。
「不幸をさまたげたい」「良いことがあって欲しい」と願う人間の心は今も昔も変わらないのですね。
アメリカ合衆国税関・国境警備局
アメリカとメキシコの国境
アメリカとメキシコの国境は3200㎞にわたりカリフォルニア、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサスに面しています。
島国である日本に住んでいる私たちには地続きの国境というものがあまりイメージできません。
しかし海外では国境は地続きで一歩足を踏み出せば国を越えられる状態にあることが多いです。
そこを不法に超えさせないように警備するのは大変難しいといえます。
法を守るサルタナ
サルタナはメキシコ系なのになぜメキシコ人を監視するのかとルースに非難されます。
しかしサルタナは正規に移民として入国し、苦労して税関取締局の職員になった人間です。
同じメキシコ系だからといったことではなく、不法だから取り締まる。
サルタナは「法を守る」ということに対して信念を持っているのです。
タイトルの真の意味
マチェーテという名
タイトルにもなっているマチェーテは、Machete(マチェット)などとも呼ばれる大型のナイフのことです。
ジャングルナイフ、ブッシュナイフといった方が用途がわかりやすいでしょうか。
日本のナタのようなものだと考えられます。
主に山や森林などで木を伐採にするのに使われていて、山仕事や枝払いをするのに適したナイフです。
「13日の金曜日」のジェイソンが武器として使っているので、ジェイソンナイフと呼ばれることもあります。
ナイフの名前を持つ男
そう、マチェーテはナイフの名前を持つ男なのです。
その名の通り鋼のような肉体と精神そして正義感の持ち主。
そして、どんな状況をも恐れずに果敢に立ち向かっていく男です。
ナイフを持った手を振り上げてザッと振り下し、まるで木の枝を伐採するかの如く敵の腕や首を切り落としていきます。
マチェーテは銃も使いますが、それはあくまでも予備的なもの。
自身が持つ武器としてはナイフ(マチェーテ)にこだわっているのでしょう。
そのこだわりを裏付けるようにナイフの使い手としても相当な腕を持っています。
それは自分自身の名に懸けて、という意味もあるのではないでしょうか。
作中で使われる武器
マチェーテのナイフとトーラスの日本刀
マチェーテがナイフにこだわっているのに対して、敵である麻薬王のトーラスは常に日本刀を使っています。
わざわざ日本刀を使っているのはやはりトーラスにもこだわりがあるのでしょう。
2人の対決シーンをみる時に武器としてのナイフと日本刀の対比としてみて見るのも面白いです。
ナイフと日本刀の切れ味
実際のところ、武器としてのナイフと日本刀の切れ味はどうなのでしょうか。
マチェーテのような大型のナイフは主に力で叩き付けて押し切るものです。
日本刀は長く反った刀身を引いて切るもので、その切れ味は最強のものとして海外でも認識されています。
切る、といった点では日本刀に勝るものはありません。
ですが、今回のマチェーテとトーレスのような力任せの接近戦では力で勝負するマチェーテの方が有利だったでしょう。
それに加えてマチェーテのナイフ遣いの腕がトーレスよりも勝っていたことが大きいはず。
タイトル「マチェーテ」とあるように、刃物での戦いが一番の見せ場となっているのは面白いところです。
色々な種類の銃
そして、武器として使われている色々な種類の銃。
マシンガンやハンドガン、ショットガンやスナイパーライフルなどさまざまな種類の銃も登場します。
ブースの武器部屋や、ルースの組織の隠れ家で山のような数の銃を見ることが出来るでしょう。
ラストシーンで抱き合う2人、そしてその後
マチェーテとサルタナ
マチェーテとサルタナは同じような信念、正義感、誠実さを持った2人だといえます。
一緒に戦っていくうちにおたがいに信頼し合う2人。
すべてが終わりこれから2人はどこへ行くのか、同じ信念を持つ2人の未来はどうなるのか。
それは果てしなく続く道が指し示しているようです。
アメリカの抱える問題
アメリカに蔓延している麻薬の大部分がメキシコからの流入であり、不法移民の多数を占めるのもメキシコです。
今アメリカでは麻薬問題や移民問題は現在進行形でおこっています。
バイオレンスとして楽しめる映画、そしてアメリカの抱える社会問題についても考えさせられる映画でした。