この『エド・ウッド』にも、メインビジュアルから古い映画のような印象を抱く人は少なくないはずです。
そして映画には、たびたび「時代遅れ」「古い」と揶揄される人物が登場しています。
かつてドラキュラ俳優として名を馳せたベラ・ルゴシです。
「あの人は今…」的存在のルゴシをスターとして敬愛し、彼の作品を撮ったエド・ウッド。
カラー映画が普通になった時代にあえてモノクロで映画を撮ったバートン。
この二重構造に通じるのは、今は昔となってしまった存在を甦らせたいという想いではないでしょうか。
感覚に存在するマイノリティ
ところで、『エド・ウッド』の中にはこんな一幕があります。『怪物の花嫁』の撮影中のこと。
ヒロイン役のロレッタのドレスの色を赤と緑どちらにするかを、スタッフのビルに尋ねた場面です。
「俺は色弱なんだ。グレーのほうを」
引用:『エド・ウッド』/配給:ブエナ・ビスタ・ピクチャーズ
ビルは色覚特性を持っていました。そのため、色の違いが他の人のようには分かりません。
何気ないシーンですが、わたしたちが普段見落としがちなマイノリティの存在が表出しています。
そしてこのとき、実はわたしたち観客にもドレスの色の違いは分かりません。
画面が白黒だからです。
わたしたちはこの一瞬、マイノリティの立場に立っていることになります。
そもそも、エド・ウッド本人もマイノリティ。
女装趣味もそうですが、彼の作品センスは一般的に広く受け入れられるものではありません。
モノクロ映画ならではの仕掛けのあるこのシーン。
この映画の核のひとつがマイノリティの存在であることを示唆しています。
主人公は本当に”エド・ウッド”?
ところで、この映画の主人公は本当にエド・ウッドその人なのでしょうか?
確かにタイトル・ロールだし、映像で描かれているのは主にエドの映画製作の様子。
物語が展開される彼の監督デビュー作から『プラン9~』の制作期間は彼の黄金期とも呼ばれています。
ですが、本当にエド・ウッドが主人公なのでしょうか。
主人公とは一般的に、観客が一番共感を寄せる人物といえます。
そう考えてみてみると、エドのほかにも観客が感情を揺さぶられる存在が見えてくるのです。
そう、名優ベラ・ルゴシです。彼の存在は映画にとって重要な意味を持っています。
エド・ウッドとベラ・ルゴシ、ふたりの人物がどのように観客の心に迫るのかを見てみましょう。
愛すべき変人、エド・ウッド
エド・ウッドを演じたのは、バートン映画の常連ジョニー・デップ。
彼のハンサムなルックスも相まって、映画のエドはチャーミングで憎めないキャラクターです。
まずはエド・ウッドというキャラクターが持つ魅力、共感ポイントを見ていきます。
誰にも言えなかった秘密の趣味
エドはデビュー作、『グレンとグレンダ』に並々ならぬ情熱を注ぎます。
それは彼にとってこの作品が、ずっと隠してきた秘密の趣味を曝け出す自伝的映画だから。
エドが生きた当時、異性装は差別的、偏見的な目線で見られることの多いものでした。