ティ・チャカとウンジョブの対立の終わり方は、彼らの息子2人に違う形で母国への懐疑心を与えたといえるでしょう。
その意味で、ティ・チャラとキルモンガーは根本的に敵対関係にあるとはいえません。共にワカンダ国をよくしたい思いで一致しているのです。
極悪非道の悪漢に見えるキルモンガーですが、人間味のある一面も描かれています。
彼は父親が「おとぎ話」として話していた美しいワガンダの夕日をいつも心に抱いていました。
愛国心を持つ王族という点でティ・チャラとは何ら変わるところがないのです。
キルモンガーは本当に悪者なのか
ブラックパンサーから力づくで王座をもぎとったキルモンガーは一見ただの悪役です。しかしよく見てみれば全く違う顔が浮かんでくるのです。
崇高な目的のために強行手段を取るキルモンガー
キルモンガーの目的の1つは父親の殺害に対する復讐、もう1つがワカンダ王国の支配とその技術を利用した世界征服です。
強大なエネルギーを持つ物質であるヴィブラニウムは、その力によってワカンダを支える最新鋭の科学技術を生み出します。
キルモンガーはその力を利用し、父親の悲願であった「アフリカ系民族に対する差別のない世界」を創り出そうとしているのです。
差別撤廃という目的自体に異を唱える人は数少ないでしょう。
しかしそのために武力という手段を取る点で彼は母国に戻っても多くの敵を作ってしまうのです。
彼は崇高な目的のために子供じみた強行手段を取るという矛盾を犯しているといえるでしょう。
善に根ざした過激主義者
ティ・チャラも差別や貧困の渦巻く世界への憤りを持っています。本質的に彼はキルモンガーに同志という思いを持っていたのかもしれません。
ティ・チャラは最終的にこの問題解決のために武力制圧ではなく「自国が有する高度文明の世界共有」という手段を取るに至ります。
この賢明さは理想のために過激になったキルモンガーがもたらしたものだともいえるでしょう。つまりは反面教師になったのです。
その意味でティ・チャラの最後の英断にはキルモンガーの意志もふくまれていたといえます。
ティ・チャラの最後の国連演説によってキルモンガーというヴィランは最終的にはヒーローサイドについたともいえるでしょう。
いずれにせよ彼は絶対悪ではなく、善に根ざした過激主義者だったのです。
2人の男の正義と悪
ブラックパンサーとキルモンガーには譲れない「理念」があり、作中では2人の哲学が激突します。彼らの正義とは何だったのでしょうか。
ブラックパンサーの正義とは
ブラックパンサーことティ・チャラはワカンダの新たな国王です。国王の責務としてまずは自国を外の脅威から守らなければいけません。
首相や大統領、どこの国家元首にとってもそれこそ最優先事項です。そのためブラックパンサーは世界平和を望みながら外に踏み出せません。
もしワカンダ国の高度文明が外にもれたら、その資源や技術を奪うべく世界中から侵略の手が伸びることでしょう。
この脅威はワカンダ国の歴史において代々王家に受け継がれてきたものでしょう。ブラックパンサーにもその重みがのしかかります。
しかし彼は最終的に母国の歴史の正義ではなく、時代に応じた正義を取りました。その柔軟な判断はこの映画に深みを与えたといえます。
そしてそれは貧困や環境危機にあえぐ現代社会にも大切なメッセージとなりうるものでした。
キルモンガーの正義とは
キルモンガーは父殺害の復讐という目的と共に差別撤廃という大きな理念を持っています。その目的自体はヒーローサイドとして見れます。
アメリカ社会の最下層で幼少期を過ごした彼は身を持ってアフリカ系民族の不当な差別を体験してきたはずです。