ヘンリー・ヒルという男、所詮はマフィアに憧れたアイルランド系のチンピラに過ぎなかったのです。
ヘンリー・ジミー・トミーそれぞれの違い
ジミー
少年の頃からマフィアの使いっぱしりをして点数を稼ぎ、彼らのお気に入りとなったヘンリーが、預けられたのがジミーでした。
ジミー”ザ・ジェント”(紳士)と言われたように、一見温厚に見えるジミーでしたが、実は腹の中に狂気と打算が渦巻いているタイプの男でしょう。
ルフトハンザ航空宝石強奪事件の後、事件に関わった仲間を次々と殺してく非情な強欲さを見逃すわけにはいきません。
トミー
マフィアの準構成員に加えてもらったヘンリーがジミーの下で相棒に組まされたのがトミーでした。
彼は根っからの「狂犬」とみることが出来るでしょう。
怒らせたら何をやりだすか分からない、という性格は、若いバーテンをいきなり射殺するシーンに象徴されています。
しかし、彼のみ両親がシチリア出身でマフィアの正式な構成員になれる資格があるというのも皮肉な点。
構成員になれると決まりヘンリーやジミーから祝福されたのもつかの間、彼が過去に起こした「狂気」が原因で幹部に殺されるという結果に。
こうしたトミーの生き様もスコセッシが表現したいマフィアの「業」を端的に体現しているキャラクターといえるでしょう。
3人のバランス
ヘンリー・ジミー・トミーの3人の「悪」のキャラクターは先述のように少しずつ異なり、これが作品に面白さを加えています。
腹に非情さを隠したジミー、狂気丸出しのトミー、ただカッコいいマフィアに憧れ安楽な生活をしたいだけのヘンリー。
ジミーとトミーをヘンリー目線で語らせることで、裏社会での生き方を区別して描きだしているのです。
そうすることで、裏社会に生きる男の「業」を上手く表現することに成功しているといえるでしょう。
仲間を売り、自分の身を守ったラスト
所詮本物の裏社会では生きていけないヘンリー
クスリに手を出すなと大親分ポーリーに言われていた忠告も聞かないヘンリーは自らも中毒者となり逮捕。
ジミーに殺されると恐怖したヘンリーは司法取引に応じ、証人保護プログラムを受け入れ、ジミーと大親分ポーリーを警察に売ります。
そして名前も変えて知らない土地で暮らし始めるのです。しかし、彼は気づいていたのでしょうか。マフィアがこういう人物を決して許さないことを。
身の安全は手に入れたかも知れませんが、一生マフィアからの恐怖と警察の目に晒されて生きていかなければならないことを。
その惨めさに気が付かないのでしょうか。
気が付かないのでしょう。それがヘンリー・ヒルという男と描かれてきたわけです。
とことんチンピラ
ラストシークエンスでジミーが銃をこちらに向けて撃つカット(マフィアはお前を許さない)、次いでカメラ目線で普通の笑顔を見せるヘンリー。
その顔には、”退屈だけど、お気楽な人生を生きていくさ”、という能天気な感情が読み取れます。
憧れて身を置いてみたものの、ポーリー・ジミー・トミーらの本当の恐怖というものを知ってしまったのかも知れません。