そういった細かな違和感を与えない工夫が徹底されているからこその可能となった没入感なのです。
撮影監督はロジャー・ディーキンス
この作品の撮影監督は『ブレードランナー 2049』などで知られるロジャー・ディーキンスが務めています。
彼は撮影監督としてこれまで数々の作品でアカデミー賞にノミネートしてきました。
アカデミー撮影賞にはこれまでに13度ノミネートされている。2017年に、『ブレードランナー 2049』で初受賞を果たした。
出典元:https://ja.wikipedia.org/wiki/復讐者に憐れみを
相当な覚悟と準備が必要となるワンカットの撮影は、彼がいたからこそ実現できたものといえるでしょう。
映像内での没入感を生み出す装置
塹壕が映し出すリアリティ
そして、この作品の没入感を生み出すもう一つの要素が兵士がひしめきあう塹壕のリアルなセットです。
数キロ続く塹壕は何もない土地に一から作られたもので、イギリス軍側とドイツ軍側とで構造も違っています。
これらは史実に基づいてリアルに再現されたものです。
その塹壕内で主人公は数々の仲間たちとすれ違いますが、多くの兵士が疲弊したり、負傷していたりしているのが印象的。
すれ違う距離の近さや密度が物語に緊張感と閉塞感を生み出しています。
リアルさを求めたこの塹壕には歴史的な正しさだけでない、様々な演出効果が詰まっているのです。
見えない敵への恐怖
さらに、塹壕のセットは恐怖心を描くためにも効果的な演出をしています。
物語が始まってすぐ、スコフィールド達はドイツ軍の塹壕で見慣れない塹壕の構造や光景を目の当たりにします。
コンクリート構造やベッドが並ぶ寝室。ドイツ軍は長期戦を覚悟していたのでしょう。
イギリス軍の塹壕には、ゆっくりと休めるような場所はありませんでした。
そこにはドイツ軍とイギリス軍のこの戦争へ対する考え方、戦い方の違いが現れているのです。
さらに、その後もはっきりとドイツ軍の兵士が描かれることはほとんどありません。
唯一その姿が見えたのはブレイクを殺めた兵士くらいで、それも彼らの理解を超えた行動をとる存在でした。
相手の考えが読めず、相手の実像もよく分からなければ、途方もない戦への恐怖を感じます。
あえて敵の考えや姿を理解させないことで、見えないものへの恐怖を主人公と共に味わっている感覚になるのです。
第一次世界大戦と物語の舞台
続いては物語のストーリーに迫っていきましょう。
第一次世界大戦はドイツを中心とした中央同盟国とロシア、フランス、イギリスを中心とした連合国の対立が生んだ戦争です。
世界中を巻き込んだこの戦争は歴史上もっとも多くの犠牲者を生んでいます。
第二次産業革命による技術革新と塹壕戦による戦線の膠着で死亡率が大幅に上昇し、ジェノサイドの犠牲者を含めた戦闘員900万人以上と非戦闘員700万人以上が死亡した。
出典元:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E4%B8%80%E6%AC%A1%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%A4%A7%E6%88%A6
そして、この物語の舞台になっているのは西部戦線。ベルギー、フランス北東部へと侵攻するドイツ軍との争いが繰り広げられた地域です。
1917年当時はフランス領土にまでドイツ軍の侵攻が進んでいました。