曰く、その昔アメリカに渡ってきた残忍な騎士がおり、殺され首を斬られたが、今なお亡霊として人々の首を刈りに来るというもの。
なぜこの伝説が生まれたのか詳しいことは明らかではありませんが、その内容が人々の恐怖心を煽るものであるのは確かでしょう。
映画のベースには、古い伝承の中にある人々の超自然を怖れる心があるといえます。
映画の時代背景
物語の時代設定は1799年。19世紀の到来を待つ世紀末です。
1776年に独立したアメリカは、その後やって来る19世紀で南北戦争、西部開拓時代を経て内外ともに国家として確立していきます。
アメリカにとっての18世紀末はいわば、近代の大国へとのし上がる夜明け前でした。
また、この時期はちょうどイギリスの産業革命時代と重なります。世界的にみても社会の在り様が大きく変化した時代だったのです。
新たな時代の訪れの前には、当然、古い時代の退場がつきものです。
新世紀を控えた時代背景から、この映画では古い何ものかが退く様が描かれているのだと考察することができます。
新世紀を前に消えていくもの
それではいよいよ、この映画の魔女たちをめぐる二つの謎を解き明かしていきましょう。
地獄へ連れ去られる魔女
首なし騎士がヴァン・タッセル夫人を連れ去るシーンは、断面までリアルな首斬りシーンに劣らずショッキングです。
夫人の唇を鋭い歯で貪る騎士。彼が顔を離したときには、彼女の口元は血まみれ…これほどゾッとするキスシーンもそうありません。
この場面を単純に解釈するのであれば「騎士は夫人に惚れ、そのため地獄へと連れ帰った」となるでしょう。
ですが、それではどうも釈然としないと思いませんか?このキスシーンはあまりにも唐突です。
騎士は確かに夫人にある種の執着心を抱いたのかもしれません。
彼女が自身の死の原因であったこと、そして頭蓋骨を盗んで操ったことを恨んでいたのか、はたまた本当に惚れていたのか。
しかし、このシーンには別の隠された意図があると推察することができます。
この映画を彩るキーワード。恐怖の対象である魔術、そして古い時代から新しい時代への転換。
魔女であるヴァン・タッセル夫人は、魔術=古い時代に人々が抱いた超自然への恐怖心の象徴です。
そして魔術はまた、主人公イカボッドの個人的なトラウマによる恐怖の対象でもあることを忘れてはいけません。
『スリーピー・ホロウ』で描かれているのは、過去のトラウマ、過ぎ去る時代の恐怖からの脱却です。
騎士はそのために、魔女を自身と共に地獄へと連れ去りました。
彼女の退場は、イカボッドが、そして新たな世紀を迎える世界が過去の恐怖を克服したことを意味しているのです。
主人公を助けた魔女
それではもうひとつの謎。なぜ西の魔女はイカボッドに騎士の墓の場所を教えたのか。