花魁(おいらん)道中の世界は、赤い色調の光の中で朱に染まった奈緒の衣装がひときわ映えていました。
黒い高下駄でゆっくりと一歩ずつ歩く奈緒。迷うことのない奈緒の心情がしっかりとした足元からも伝わります。
奈緒が南天の匂い袋を手にしたとき、磐音は奈緒の自分への愛が変わらないことを確信するのです。
たとえ、吉原の花魁(おいらん)になろうとも変わらない奈緒の気持ちをしっかり確かめた磐音。
おこんにもすすめられたのでしょう。磐音は奈緒を見受けすること決意します。
身受け金は高額ですが、過去の事件の償いも含めて、磐音にはそれだけの大金を準備する覚悟があったのです。
おこんの口利きで、今津屋の吉右衛門から何らかの援助をしてもらえるかもしれません。
奈緒の身受け金は吉原初の1200両
身受けの金額は1200両。花魁(おいらん)の身受け金の相場が1000両以下なので、奈緒の身受け金はかなり高額です。
それだけ多くの借金が奈緒にあることを意味しています。病弱の両親を助けるために、長崎から西国を転々とした奈緒。
場所を変えるたびに借財が膨らみ、身受け金が大金となったのでしょう。
借金は花魁(おいらん)が吉原で働いて返せる額を越えています。
吉原から抜けるためには身受けをしてもらう以外に方法はありません。
奈緒としては、普通では払えない高額の身受け金になった方が結果的には都合が良いと思われます。
身受けされなければ、独身でいられるので、磐音と一緒になれる機会がゼロではなくなるからです。
匂い袋に込めた磐音の思いと奈緒の誓い
赤い南天の実は、奈緒の決意のあらわれでした。
磐音が残してくれた匂い袋は、奈緒にとって常に気持ちを励ましてくれる磐音そのものです。
また、契りを交わした日を忘れないという磐音の気持ちも込められていました。
花魁(おいらん)となって吉原に来てからも、奈緒はひとときも匂い袋を手放すことはありません。
この匂い袋を持っている自分の気持ちが磐音に通じれば、必ず磐音も応えてくれると信じていたのです。
故郷を去る前に奈緒と会えて匂い袋の意味さえ伝えられていたら、磐音は脱藩することを考えなかったかもしれません。
まとめ 新しい出発の時
南天の実がつないだ磐音と奈緒の絆は、切れることはないでしょう。
当面は精神的なつながりのみとなりますが、やがて必ず幸せをつかむ時がくると考えます。
おこんも、2人のために磐音の生活を支えていくでしょう。
田沼意次がらみの一件で、失いかけた武士としての精神と奈緒への気持ちを取り戻した磐音。もう迷う必要はないのです。
南天の白いつぼみは、契りを交わしたときの磐音の心を映し出していました。