だからこそケイトにサインを求め、この世界で生きていけない、ということを伝えるのです。
アレハンドロの情け
本作は、それぞれの麻薬カルテルやCIAが、自身の目的を達成するためには容赦をしない様子がよく描かれています。
裏社会で生きる者は相手に同情をし、情けをかけると反対に寝首をかかれることがあるからです。
そうすると、アレハンドロがケイトにサインを求めるのは、情けをかけていたとも考えられます。
本来ならばケイトは殺されていた?
ケイトがもしも世間に、CIAのやり方やアレハンドロの正体を公表すると、アレハンドロにとっては非常に良くありません。
それまでの容赦ない拷問や殺害から見ても、アレハンドロは自身の身を危険にさらすケイトを殺していてもいいはずです。
しかしそれをせず、書類のサインだけにとどめたのは、アレハンドロの情けとも取れます。
映画の中でも、ケイトが亡くなった妻を度思い出させることもアレハンドロから語られました。
さらに、アレハンドロがケイトを殺すのをやめたのは、FBIやCIA上層部の目的も関係しているようです。
カルテル捜査官のケイトに期待すること
映画冒頭、現場経験豊富で行動力と判断力があるケイトは、爆発でチームに被害が出た後、上層部の会議に呼び出されました。
そこで上層部から、麻薬捜査やカルテルのボス逮捕に優秀な人物がケイトだと聞き、作戦に参加するように伝えられます。
ケイトがそうする目的をマットに聞くと、マットは上層部をちらっと見てこのように答えました。
過剰に反応すること
引用:ボーダー・ライン/配給会社:ライオンズゲート
このセリフから、上層部がケイトに期待していることがいくつか見えてきます。
- カルテル捜査には汚いと思われるやり方があること
- ケイトが持つ正義感が貧困地域では一切通じないことを感じること
上層部はケイトに、このようなやり方があることを学んでほしいのです。
おそらくアレハンドロにも上層部の目的は伝わっているはず。だからこそ、アレハンドロはケイトを殺しはしないのです。
ケイトが引き金を引けない理由
アレハンドロにサインを求められたのち、ケイトは銃口を向けますが引き金は引けませんでした。
その理由として第一に考えられるのが、「あ、この世界は無理だ」とすでに心が折られていた、ということです。
CIAのやり方やアレハンドロの正体をさらす宣言をしたケイトですが、結局アレハンドロの脅しに屈しました。
その時点で、ケイトの正義はアレハンドロに砕かれていたのです。
普段銃口を人に向けることもある仕事をするケイトが、アレハンドロに銃口を向けたときその手は震え、照準は定まっていません。
つまりケイトの心は動揺しており、FBIとして、カルテル捜査官としてのプライドは崩されていたと判断できます。
実際に『ボーダー・ライン』の続編である『ボーダー・ライン:ソルジャーズ・デイ』には、ケイトは登場しません。
アレハンドロの存在意義
心は砕けつつもアレハンドロに銃口を向けたケイト。
ケイトにとって、目の前の相手がどのように映っていたのか考察することで、ケイトが引き金を引けない理由はさらに深まります。
犯罪率が減る可能性
アレハンドロはソノラカルテルNo.3のファウストを倒すことで、争いを起こし、新たに自身の麻薬カルテルを作ることが目的です。
またソノラカルテルは、街全てを支配しているとは言えません。
そのため他のカルテルとの争いが激しく、警察側はそれに陽動をかけ、カルテル同士で潰し合わせるのが目的でした。
その潰し合いが終わり、新たにアレハンドロ率いる麻薬カルテル(コロンビアカルテル)がすべてを支配すれば、争いは収まります。
そう考えると、アレハンドロを生かしておくことで、犯罪が減る可能性(0にはならない)が出てくるのです。
能力が高く、裏社会の事情を知ったケイトは、直感的にアレハンドロの存在の重要性に気付いたのかもしれません。
アレハンドロには助けられた
ケイトは一度大きな失態を犯しています。それは、買収された警官テッドと一夜を過ごそうとしたこと。
結局テッドに殺されかけたケイトは、アレハンドロによって助けられました。
つまりケイトにとってアレハンドロは許せない存在でありながら、命の恩人でもあります。