ムッソリーニやヒトラーは間違いなく戦争を進めた悪の党首ですが、それを推したは国民であるということ。
さらにそれは、現代の社会にヒトラーやムッソリーニが現れたとすると、簡単に再現されることを示しています。
犬殺しを払しょくしたムッソリーニ
映画ラストでは、車に乗せられたムッソリーニが手を振る国民に迎えられているシーンで終わります。
直前までは犬殺しで批判されていましたが、謝罪をすることによってムッソリーニは以前の人気を手に入れました。
つまりムッソリーニは現代の世の中に生き残ったのです…
恐ろしい国民の酔狂
イタリア国民はあくまでもムッソリーニをモノマネするコメディアンという目線で見ていました。
しかし結果的にムッソリーニを演じているコメディアンに、国民は酔狂しています。
中にはナチス式敬礼(作中にムッソリーニがしていた挨拶作法)をする人もいました。
ラストのシーンでは、現代でもファシズムが国民に理解、支持されることを示唆しているのです。
歴史は繰り返す
本作でムッソリーニを「本物」と見抜けた人は、カナレッティとフランチェスカの祖母だけです。
この二人だけは、ムッソリーニがこれから何を起こすのかを見抜いていますが、これは民主主義の前では少数派の声。
ムッソリーニが犬殺しを認め、保護施設を建設することを約束した会談の中、乱入したカナレッティに対しムッソリーニはこう言います。
そう歴史は繰り返す。今のように混迷した国を救ったのは?
引用:帰ってきたムッソリーニ/配給会社:ヴィジョン・ディストリビューション
結局カナレッティは警備員に連れていかれたことからも、ムッソリーニが歴史(第二次世界大戦のような)を繰り返すことを発言しています。
つまりラストでイタリア国民に再び指示されたムッソリーニは、ファシズムを再度進めることを明言するのです。
しかも恐ろしいのは、歴史を知っているムッソリーニはやり方をさらに工夫する可能性があるということ。
映画ラストで国民が酔狂している様子は、ムッソリーニによるファシズムが始まったことを表しています。
イタリア国旗とEU旗
映画の映像としての最後は、沿道のイタリア国旗とEUの旗の映像で終わります。
つまりこれは、今からイタリアがEU(ヨーロッパ)を再び侵略することを表しているのです。
国際社会となった現代、横のつながりが強いため、EUを征服してしまえばそれは大きな利益の獲得となります。
イタリアがヨーロッパ全体を支配していくのです。最後の2つの国旗には、そのメッセージが込められていました。
SONO TORNATO
エンドロール直前にイタリア版原題の「SONO TORNATO(帰ってくる)」が出てきました。
この言葉で締めることこそムッソリーニが「帰ってきた」という意味を表しています。
つまり、第二次世界大戦直前のようなファシズムが、ムッソリーニによって誘発されたのです。
ファシズムの代表であるヒトラーやムッソリーニに私たちは踊らされ、独裁政権を復活させる思考を働かされます。
それは、これまで考察した内容そのもので、だからこそ非常に危険だということを製作側が伝えたいのです。
本作公式HPに、コメディと思って本作を観る観衆に対して、本作を笑うことはムッソリーニに征服されている、とする言葉が書かれています。
コメディアンとしてムッソリーニを指示する映画内のイタリア国民と、映画を観て笑っている観客に大差はないのです。
コメディ・ファンタジーなのにリアル
日本だけでなく、イタリアを含む世界中で政治に対する不満が募っています。
その世の中に、ヒトラーやムッソリーニという危険な思想を持った人たちがちょっと国民を刺激するだけで、ファシズムは再び起きます。
本作はあくまでもコメディであり、ファンタジーであるのに、現実世界でファシズムの再現が起こりうることを表現しました。
カナレッティとフランチェスカ(カナレッティの不倫相手)の祖母のように、真実に気付く人がどれだけいるか。
これが第三次世界大戦を勃発させないための秘訣かもしれません。