クルマを売りたい企業の考えるレースと、ケンやキャロルの考えるレースには基本的なズレがあったのです。
このル・マンの結果を振り返って見る時、ケンには特にキャロルの微妙な立ち位置を理解することができたのではないでしょうか。
最後の演出はケンの意思だった?
レース当時のフォードの監督ビーブ上級副社長は、3台1列にこだわりました。販売の総責任者ですから当然といえば当然。
キャロルはケンに「おまえに任せる」と。
考えてみれば、数百メートルの差でチェッカーを受けたとしてもフォードの表彰台独占には変わりないわけです。
結果は優勝できなかったものの、3台1列を最後に決めたのはケンの意思だったように思えます。
だからこそフィニッシュ前に周回速度のコースレコードを叩き出し、意地を見せたのではないでしょうか。
「キャロル、お前と作ったこのGT40は最高のマシンだぜ!」。そんなケンの叫びが聞こえて来そうです。
それがキャロルへの友情への恩返しだったのでしょう。だから優勝じゃなくても、悔しくなかったのではないかと思えるのです。
フォードという大企業に向かわなければならないキャロルの立ち位置も理解できたのです。
エンツォ・フェラーリからも敬意を払ってもらったし、優勝はもっと良いマシンを引っさげて来年穫ればいいさ、と。
たとえビーブ上級副社長のワナだったにせよ、ケンにとってもうそんな事はどうでもいいことだったのでしょう。
ケンの息子に手渡ったレンチ
キャロルは、オフィスからあのレンチを持って、ケンの家にやってきます。そこにやってきたケンの息子にレンチを渡します。
(息子ピーターはそれが父のレンチとは知りません)
キャロルが息子ピーターに語りかけます。
「君のお父さんとは」
するとピーターが、
「親友だったんでしょ?」
キャロルは、
「ああ、そうだ。親友だ」
と返し、目元の涙を隠します。
引用:フォードvsフェラーリ/配給会社:20世紀フォックス
あんな心が通じ合う男がいだだろうか、それはピーターも分かっていてくれた。今はもういないケンに対する友情の想いが溢れ出てきました。
あのレンチは、ケンとキャロルの友情と信頼の証であり、絆であったのです。
それをケンの息子に友情のバトンとして渡し、キャロルは涙を拭いながら(心にはケンがいる)新しい人生をスタートしていったのでしょう。
まとめ
一方で、男と男の熱い友情と信頼、さらに「キャロル+ケンvsフォード」ともいえる個人対企業の対立もしっかり描かれた本作。