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映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦」は2011年公開の劇場版19作目です。
監督がしぎのあきらから増井壮一に変わり関ジャニ∞が主題歌を手がけたことも話題となりました。
その関ジャニ∞からジャガー役の村上信五、マッシュ役の大倉忠義が友情出演しています。
双葉社からの漫画版も発売された本作はしんのすけとレモンの潜入スパイアクションが見所です。
今回はヘガデル博士のメガデルⅡが狙われた理由を中心に考察していきましょう。
また、黒幕のナーラオとヨースルの関係も含めた本作のテーマについてもじっくり掘り下げていきます。
スパイ映画への揶揄・皮肉
まず本作全体の構造は「007」や「ミッションインポッシブル」への揶揄・皮肉にあります。
ネタバレすると、しんのすけが今回レモンと共に参加するスパイ任務やアクション仮面は全て嘘でした。
都合よくしんのすけだけがレモンのパートナーに選ばれたのも実はある目的に利用するためです。
これは劇場版でしんちゃんだけが大活躍の冒険へ行くための説得力ある理由付けになっています。
また、上からの任務を正義だと信じていた気持ちを裏切られるのもスパイ映画への揶揄でしょう。
子供向けとして作られていながら、同時にスパイ映画の構造をひっくり返す仕掛けが秀逸です。
メガヘガデルⅡが狙われた理由
スカシペスタン共和国はヘーデルナ王国にあるカプセルに入ったメガヘガデルⅡを狙います。
上記したスパイ映画への揶揄・皮肉という構造がどのように表現されているかがここで分かるのです。
その成り立ちも含めて考察していきましょう。
オナラによる世界征服
最終目的はメガヘガデルⅡを大量生産し、世界中の主要都市にミサイル発射して世界征服を行うことでした。
オナラによる世界征服と聞くと何ともシュールで馬鹿げていますが、しかし方法論自体は合理的です。
天才科学者の発明品を軍事兵器として悪用するというのは古典的な悪の組織の手法になります。
その上でタチが悪いのはそれを権威にして正当化し、無実のヘガデル博士を悪者扱いしたことです。
ややもすれば権威を持つ国際スパイ組織、CIAやMI6などへの当てつけではないでしょうか。
本作に近い時期でいえば2008年の映画「007慰めの報酬」なども国家権力を批判的に扱っていました。
そうした下地があることがこの展開への説得力を持たせている要因です。
天才の考えは世に理解されない
そしてもう一つ、これはもはや時代の常ともいえる奇人変人扱いされるヘガデル博士です。
これはいつの時代も天才と呼ばれる人達が抱える孤独であり、苦しみとなっています。
アインシュタインの相対性理論なども評価されたのは没後であり生前には評価されません。
実際に博士はしんのすけとの対話で自分の考えや悪ではないことを理解して貰おうとしました。
しかし、彼の考えは一度否定されてしまい、発明品の意図も全く伝わらないのです。
コミカルながらにしんのすけに受け入れられない描写は一抹の寂しさがありました。
独裁国家の排他性
そのようなスカシペスタン共和国のスタンスは独裁国家の排他性への風刺が込められています。
本作においてはオナラをする人が正義、それに従わない都合の悪い存在が悪となるのです。