その点復讐という要素はたとえ時代やジャンルが違っても使える普遍的なテーマです。
この辺りチャンバラ時代劇が踏みそうな地雷を徹底して避ける目配り・心配りがしっかり行き届いています。
父と祖父の死
作劇の事情を踏まえた上で芽を向けると、後述する父と祖父の死が一番強く影響しています。
リリィの父はアニマル・ドローン開発の研究者、そして祖父が忍術を彼女に鍛えた師匠という立ち位置です。
この配置にも勿論大きな意味があるのですが、まず大きな動機として身内の死・喪失があります。
その復讐という動機を覆い隠し正当化する為に狐の黒装束が有効に機能しているのです。
ミアとの対比
そしてまた劇中で対比されているのはサイキッカー少女・ミアの存在です。
彼女は冷静沈着を通り越して無感情で自主性のない存在として描かれているように思われます。
既に身内を失い探偵事務所の傍ら自らの意思で動くリリィとはそこが対照的です。
戦い方もストレートな忍術のリリィに対して特殊能力を多彩に駆使するミアとなっています。
こうして比べてみるとリリィが「動」、ミアが「静」を担っているのではないでしょうか。
そしてそれが終盤のドラマにおける大きな核ともなっているのです。
父と祖父の死との関連性
上述した通り、リリィの復讐の動機は彼女の父と祖父の死が発端となっています。
ここではそれが彼女を含めて作品に与えた影響・関連性について見ていきましょう。
期待と憧れ
まずリリィから見て父アレンが「憧れ」、そして祖父兵衛が「期待」の象徴として描かれています。
父に対してはアニマル・ドローンの研究者という自分の道を進んだ者への憧れがありました。
一方祖父に対しては忍術継承という期待や責任といった重苦しい役割となっているのです。
この二つの要素をリリィはハイブリッドに受け継いでおり、彼女の心に深くまで存在しています。
リリィの人格形成に大きな影響を与えたのですから、その喪失は凄まじく大きなものだったことでしょう。
外道科学者ローレンとの対比
父アレンの死と関連して重要な役割を果たしているのが外道科学者ローレン、ミアの父親です。
アレンはミアとアニマル・ドローン開発の研究方針で大きなすれ違いが起こりました。
教育方針にも現われていて、娘を大事にするアレンと娘を捨て駒にしか見てないローレンという違いにもなります。
その違いによってリリィは父の仇という要素がより強く膨らんでいくことになるのです。
この違いは同時に「父世代の業を子が代償として支払う」という構造にもなっています。
無差別に力を使わない
父と祖父の死はまたリリィに無差別に力を使わないことの大切さも間接的に説いていたようです。
無差別攻撃を仕掛けたミアにトドメを刺さなかったのは父が相手を赦すことを説いていたからでした。
自身が持つ忍術の力を復讐目的で使うとはいえ、無差別に人を殺していいわけではないと知ります。
この辺りの復讐の昇華がリリィにとって一番の課題だったのではないでしょうか。