出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B00016ZLIE/?tag=cinema-notes-22
映画「アイデン&ティティ」はみうらじゅん原作漫画を2003年に実写化した作品です。
田口トモロヲ初監督作品にして、脚本が宮藤官九郎と今見るとかなり豪華な布陣になっています。
ヒロインの中島の彼女役に麻生久美子が出るなどキャスティングもまた素晴らしいです。
題材は1980年代後半~1990年代初頭に起こったバンドブームを118分で濃密に描いています。
本稿では中島が「アイデン&ティティ」に込めた願いを中心に考察していきましょう。
また、中島の傍にいた幻が曲を聞いた姿を消した理由なども併せてネタバレ込みで見ていきます。
バンドブームとは
本作で扱われているバンドブームとは1980年代後半に起こった「第二次バンドブーム」です。
代表的なグループだとBOØWY、TM NETWORK、米米CLUB、プリンセス・プリンセス辺りでしょうか。
いずれも隆盛を極めた時期のバンドグループであり、その熱量たるや凄まじいものがありました。
本作はそれを一種の懐古趣味として描いているので、リアルタイム世代か否かで評価は分かれます。
しかし、バンドグループの影の苦悩・葛藤がリアルに描かれており、それが多くの人の共感を呼ぶのです。
逆にいいますと、バンドブームを通して80年代後半~90年代初頭の世相がよく分かります。
本作に出てくる「SPEEDWAY」というグループはそんな時代に埋もれたバンドなのです。
メンバーは中島、ジョニー、トシ、豆蔵の四人であり、本稿では特に中島を中心に見ていきます。
中島が「アイデン&ティティ」に込めた願い
中島は売れないバンドとして紆余曲折を経験していく中で「アイデン&ティティ」という曲を作ります。
果たしてその曲名に込められた意味、そして願いとは何なのでしょうか?
曲名の意味
まずタイトルの意味から迫りましょう。タイトルは日本語で「自己同一性」を意味します。
この単語は非常に抽象度が高く、極めて哲学的かつ心理学的な単語で誤解も多く生むのです。
本来は「内側の自分」と「外側の自分」を同一化させた時に出来る自分を差します。
本作においてはこの二つの要素をわざわざ&を用いて二つに区切っているのです。
つまりアイデンが中島自身が思う中島、そしてティティが彼女が思う中島を指しています。
この内側の自分と外側の自分が&で繋がり重なることという極めて根源的なタイトルです。
まず中島は誰よりも自分をずっと見守り応援してくれた彼女へこの曲を作ることを願いました。
特定の人に向けるのがラブソング
「アイデン&ティティ」はメンバーからも観客からも上場の反応を得ることが出来ました。
それは何故かというと具体的な特定の人間に向けて描かれたメッセージだからです。
特に音楽はその歌詞やメロディーを誰に向けて何のために伝えるのかが肝となります。
世に流行っているラブソングの殆どは実はそのように向けて作られていることが多いものです。
人間、自分が経験してきたこと以上のものを説得力をもって打ち出すことは出来ません。