この予想外の仕返しに、アンドリューの素質が見えたのではないでしょうか。
そしてフレッチャーは初めて「音楽とは何か」を感じ取ることができたのです。
音楽の楽しさを知った
ラストシーンではフレッチャーが思わず指揮をとり始めるほど白熱した演奏をみせたアンドリュー。
それに対して観客がスタンディングオベーションしてもいいくらいだと思います。
しかし観客席は暗く、反応をうかがい知ることはできません。彼らの音楽が素晴らしかったのかどうかは関係無いのです。
すべては二人の自己満足の世界。他人の評価なんて知らなくていいのでしょう。
フレッチャーは大学を解雇され、第二のパーカーを育てる場を奪われました。
アンドリューも大学を辞め、偉大な音楽家になる道を閉ざされています。
しかしラストシーンで彼らは全力で演奏。そこには純粋に音楽を楽しんでいる姿がありました。
夢を断ち切られた時に初めて音楽の楽しさを知ったのではないでしょうか。
非道な指導もこのラストのためにあったのです。
ラストシーンの解釈
和解したかと思ったらこのどんでん返し。ラストの最大の見せ場、狂気と狂気のぶつかり合いです。
9分を超えるドラムソロの後のラストシーンで交わした二人の「ニヤリ」は何を意味するのでしょうか。
デイミアン・チャゼル監督は「主観的な不安感」を残したかったと各メディアのインタビューで語っています。
JVCジャズフェスティバルという自分に降り注ぐかも知れない栄光の舞台を壊してまでお互いが意地をぶつけ合いました。
完璧な演奏で仕上げたアンドリューに対しフレッチャーは「お前も悪魔に魂を売ったな」という自己満足感があったのでしょう。
一方のアンドリューは「暗黒世界」に足を突っ込んでしまったぜ、という自分自身に対する「ニヤリ」だったのかもしれません。
登場からラストまで生徒を追い込む鬼気迫る演技。
一方で優しさを自己演出するなど屈折するフレッチャーを演じオスカーに輝いたJ・K・シモンズ。
彼の圧倒的な存在感を味わいながら、オープンエンドの目論見に想いを馳せるのも面白い映画です。