そしてその積み上げてきた日々は最後の最後、一度は離れたグロリアの次の言葉でカタルシスに集約されます。
赤ちゃんのときからここまで育ててくれたんだから、パパはパパだよ。それは変わらない
引用:あしたは最高のはじまり/配給会社:KADOKAWA
この瞬間サミュエルの父親になる日々が一つの大きな真の幸せとして大輪の花を咲かせました。
それは正に様々な現実と格闘し様々な痛みや挫折を乗り越えてきたからこそ得られたものなのです。
大事なのは”どう生きていこうとしたか”
本作の幸せについて、大事だったのは“どう生きていこうとしたか”に集約されるのではないでしょうか。
サミュエルはきっと娘と一緒に成長したかったのに、難病のせいで親子として居られる時間は短いのです。
しかし、それがかえってサミュエルとグロリアの親子の絆を強く太くしたのだと推測されます。
ここで秀逸なのは決して娘の難病を物語のメインにせず、中心を親子の絆からブレさせなかったことです。
人間はどんな人も死ぬわけであり、サミュエルもクリスティンもいずれ死ぬ運命にあります。
だからこそ今この瞬間をどう生きていこうとしたかにその人の幸せや生き様は現われるのです。
サミュエルとグロリアの親子としての8年は正にそんな二人の生き様が詰まった最高の幸せではないでしょうか。
嘘が必要な時
さて、本作では色んな大人の嘘が横行します。母のクリスティンは勿論のこと父サミュエルもついています。
「嘘も方便」とはよくいったものですが、しかし本作の嘘には必要だった嘘とそうでない嘘とがありました。
果たして、嘘が必要な時とはどのような時なのでしょうか?
クリスティンの嘘
クリスティンがついたのは明らかについてはいけない類の嘘であり、中身もタイミングも最悪でした。
サミュエルとグロリアが血の繋がらない擬似親子だったこと、この一つで彼らの幸せを破壊しました。
クリスティンのやったことは理由がどうあれ傍から見れば自分勝手な育児放棄でしかありません。
そのくせ新しい恋人を作って今度は血の繋がりで親権を主張し娘をかすめ取ろうとさえするのです。
クリスティンの根底にあったのは恐らく「如何に他者から奪って楽をするか」だったのでしょう。
サミュエルの嘘
一方のサミュエルも嘘はついていますが、こちらはグロリアを傷つけない為のものでした。
母がいないことも特別捜査官として世界中を飛び回っているといったり、難病のことも伏せていたり。
そのせいでクリスティンが現われた時グロリアは傷つけられたといい一度は父の元を離れました。
それでも最終的に帰ってきたのはサミュエルの嘘が愛情故の思いやりだったからです。
それは完全な利己主義で奪ってやろうというスタンスのクリスティンとは非常に対照的でした。
他者を思いやること
サミュエルとクリスティン、二人の嘘の違いは娘への愛情や思いやりがあるか否かでした。
そう、全ての嘘が悪いのではなく、他者を喜ばせる嘘・楽しませる嘘も中にはあるのです。
そうした嘘は決して嘘ではなく愛情であり、サミュエルは子供への負担を楽にする時だけに使いました。
だからこそグロリアはそんな父の愛情を理解し受け入れ、サミュエルの元に戻ったのです。
他者を思いやり、その上でどうしてもつかざるを得ない時だけ嘘も必要になるのでしょう。
サミュエルは正に真実と嘘の使い分けを絶妙に行っていました。
グロリアを託した理由
上記したように、グロリアはサミュエルの実の娘ではなく、親権は母のクリスティンにありました。
クリスティンはDNA鑑定までして親権を勝ち取ったにもかかわらず最終的にサミュエルに譲ったのです。