その理由をここでは見ていきましょう。
グロリアの難病
一番の理由はグロリアが難病を抱えていることをベニーから知らされたことでした。
意地悪な見方をすれば、クリスティンは難病を抱えてると知らなかったら娘を引き渡さなかったでしょう。
一見殊勝な選択のようでいて、実はただ娘の難病という重い現実の責任を取りたくなかったのです。
つまり彼女は楽して他人の甘い蜜だけ吸いたい、いってしまえば遊び人時代のサミュエルと全く同じでした。
ラストの台詞の真偽
そしてもう一つ気になるのがラストシーンで再会した時に残りの人生を幸せにして貰いたいといったことです。
これが真の理由かのように見えますが、クリスティンは基本的に利己主義でしか物を考えません。
そんな彼女がラストだけ急に手のひらを返したようなわざとらしさ・あざとさがそこに窺えます。
つまり彼女は最後まで自分の責任をサミュエルに押しつけた格好となったのです。
だからラストも“託した”のではなく”押しつけた”と見るのが妥当ではないでしょうか。
結局クリスティンは最後まで母親になることは出来ませんでした。
自業自得
こうしてみると、さも美談かのように描かれているクリスティンのラストですが全部自業自得です。
自分からもサミュエルからも、そしてグロリアからも逃げ続けた彼女に相応しい末路ではないでしょうか。
彼女がしてあげられたのはロンドンに逃亡したことでサミュエルとグロリアが様々な風景を見られたことでしょう。
自分勝手な理由で育児放棄し身勝手な行動を取ったことがかえって父と娘を幸せへと導いたのです。
正に良いことは誰かのお陰様、悪いことは身から出た錆を地で行くラストシーンでした。
親のエゴに利用される子供
感動的かつコミカルに描かれている本作の根底に親のエゴに利用される子供という構図が見えます。
幸せの内に余命を全うしたとはいえ、グロリアはサミュエルたち大人の汚い嘘とエゴに利用されたのです。
昨今では自分勝手な理由で子供を捨てたり虐待死させたりする親が社会問題となっています。
それは個人の価値観が優先される時代となったことで益々顕著になりました。
本作に出てくるサミュエル、クリスティン、そしてベニーは決していい大人・親とはいえません。
しかし、エゴに流されず子供のことを第一に考え行動出来るか否か、そこが明暗を分けました。
子供が大人の食い物にされることなど断じてあってはならないという強い主張がそこに窺えます。
まとめ
本作は表面上凄くシンプルで分かりやすそうですが、子育ては決して単純な世界ではありません。
サミュエルは自身の命と魂を削って様々な葛藤や問題と戦いながら父親となりました。
逆に楽することしか考えなかったクリスティンは何の幸せも手にしていません。
本当の意味で幸せになるには、自分よりも他者を思いやって行動する必要があります。
子供が血縁関係でなかったとしても、難病を抱えていても、子供を育てる我慢強さがありますか?