だからこそ一見優しそうだけど実は深く関わったら一番の危険人物として描かれています。
シスコン
身も蓋もないことをいえば、凌は義理とはいえ妹離れがいつまでも出来ない重度のシスコンです。
彼の人生は全て初ありきで形成されており、初こそが彼の生きる意味そのものになっています。
その妹がいつか自分の手を離れる日が来てしまうのではないか、それが不安で仕方ないのでしょう。
だからこそ亮輝の元を一度離れて戻ってきたときはとまどいながらも抱きしめたのです。
残念ながら再び亮輝へと走り完全に独り立ちされてしまいましたが、その不憫さも含めての凌でしょう。
自分の弱さと向き合えない者
こうしてみると、凌の不安の真意は「自分の弱さと向き合えない者」の演出意図かもしれません。
それは初や亮輝、梓たち他の登場人物と比べれば一目瞭然です。
初は数々の裏切りや騙しで傷つきながらも決して自分の真っ直ぐな思いだけは曲げませんでした。
亮輝にしても厳しいながらも思いは真っ直ぐ貫き、梓にしても策士でありながら自分の弱さも見せています。
一方凌はというとそのような弱さを必死に覆い隠そうとする優等生的態度が非常に歪んでします。
それは彼が自分の弱さと心底向き合えていない、一番本作で脆くて弱い人だという証左でありましょう。
そしてそれがラストシーンで亮輝と結ばれる形で初に振られる凌という結末へ繋がりました。
バカさは若者の特権
こうして見てみると、冒頭でも書いたように本作は難解風を装ったバカな若者達の物語なのです。
思春期で世の中のこと何も分かってないのに大人の振りして格好つけるのですから。
しかし、そんな彼らも最終的にバカさを自己肯定した等身大の初には敵いません。
それもその筈、世の中に疎く無知な高校生が学校内の狭い世界だけで生きているのですから。
しかし、そうした世界だからこそ出来る特大のバカさもまた輝かしいものなのです。
小難しい大人の屁理屈を吹っ飛ばす痛快な初の台詞は本作の象徴ではないでしょうか。
頭ではなく心が大事
本作は表面上難解さを装ったアート映画っぽい演出ですが、核の部分は何も難しくありません。
要するに「バカでいいじゃん」とは「頭ではなく心が大事」という至極真っ当なメッセージです。
人間、本当は自分の心に正直に生きるのが一番よく、頭で考えたことなんて上っ面でしかありません。
にも関わらず本作の初以外の男性陣は皆小難しく頭で考えて策を弄しすぎなのです。
仕事や勉強の上でなら兎も角プライベートの人間関係までそれでは身が持ちません。
しかし、ストレス社会の現代ではその本質が中々見えにくくなってしまっています。
そうした小難しさを最終的に吹っ飛ばしてくれる初の爽快さは見ていて清々しいです。
自然体に笑っていられる初という女の子の心の強さが真っ直ぐに伝わってくるいい作品でした。