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本作『亜人』は桜井画門による傑作漫画『亜人』の実写映画化です。
公開前から漫画やアニメならではの非現実的な世界観をどのように実写へと落とし込むのかということに注目が集まりました。
また原作コミックス3巻から9巻までの実写化に合わせ展開や設定に大きな変更が加えられました。
中でもアクションシーンに重きを置いたストーリー展開は原作からの最大の改変ポイントのひとつです。
今回は原作と映画の違いを軸にして、それが映画に何をもたらしたのかについて徹底的に解説します。
メインキャラの設定上の違い
原作と映画版の違いとして分かりやすいのが、登場人物の設定です。年齢から描写まで詳しく見ていきましょう。
主人公/永井圭
主人公で亜人の永井は原作では高校生。一度聞いたものは全て記憶できる類まれなる能力の持ち主です。
全国トップクラスの学力があり、妹からは「冷たい人」と言われるほど冷静で合理主義の人物として描かれています。
一方、映画版では研修医という設定です。これは永井を演じる佐藤健の当時の年齢に合わせるための変更だといえるでしょう。
ただアクション重視の映画において永井のキャラ設定は大きな意味を持ちません。彼はヒーロー気質でもなく個性的な面もありません。
実際、極悪非道な佐藤に対して、まっとうな正義感や人情を持っているだけの人です。
主人公でもそのような薄いキャラの方が、展開力が求められるアクション映画には良いといえるのではないでしょうか。
ヴィラン/佐藤
『亜人』のヴィラン(悪役)・佐藤は原作では初老(50代位)のキャラクターとして描かれています。
佐藤は幼少期から動物虐待を始めるなど生来のサイコパスぶりを見せます。アメリカ軍に入隊することで大量殺戮のスキルを磨きました。
原作の中の彼は殺し合いの中で「生」の実感や生きる喜びを見出す人間のように描かれています。
映画版の佐藤はまず30歳前後の年齢設定であり、これもまた演じる綾野剛に合わせたものでしょう。
そして最大のポイントは原作にあるサイコパスな面がかなり抑えられている点にあります。
映画の佐藤は亜人研究所で20年もの間、残酷な人体実験を受けさせられていました。映画の中で彼はこう言います。
「この国は息を吐くように嘘をつく」
引用:亜人/配給会社:東宝
このセリフからは日本政府が亜人保護を謳いながら実際はモルモットとして虐待してきたことへのとてつもない怒りが感じられます。
映画の佐藤は原作よりも受け手の共感を呼ぶキャラだといえます。
20年間も人体実験で殺され続けたのであれば、彼の極悪非道ぶりも道理なのではないか。
そう感じた鑑賞者も多いことでしょう。佐藤の設定変更は、物語の最後まで観る者を引っ張る牽引力にもなったはずです。
その他のキャラ描写の違い
原作との比較の元、主人公とヴィラン以外のキャラの違いを見てゆきましょう。
フレンドリーな黒い幽霊・IBM
黒い幽霊ことIBMとは「Invisible Black Matter」の略語です。
亜人の中から出てくる幽霊、あるいはもう1人の自分・アルターエゴともいえる存在です。
人間には不可視のモンスターでありながら、建物や人に物理的な危害を加えることができます。
亜人が生命の危機など過度なストレスを感じたときに飛び出てきて多くの場合、主人を助けようとします。
原作でのIMBは得体のしれない黒い影であり、ひたすら不気味で邪悪な存在として描かれています。
一方、映画版では不気味ながらも、森のなかで永井に調教されるシーンがあるなどユーモラスな描写も数多くなされています。
全般的に残酷な殺戮シーンがある映画なだけに、監督は抑制を加えようとしたのかもしれません。