出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B07HC1446Q/?tag=cinema-notes-22
映画『ノクターナル・アニマルズ』(Nocturnal Animals)はオースティン・ライトの小説『ミステリ原稿』を原作とした作品です。
監督・脚本はデザイナーとしても有名なトム・フォードで2009年の映画『シングルマン』以来二作目の製作となりました。
主演はエイミー・アダムス、脇にはジェイク・ギレンホールやマイケル・シャノンと大物の実力派揃いです。
衣装や小道具、セットなども非常に凝った作りで、例えば以下の賞を受賞しています。
第73回ヴェネツィア国際映画祭審査員大賞
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ノクターナル・アニマルズ
物語はスーザンの元夫・エドワードが小説『夜の獣たち』を現実と対比させて進行していくのです。
そこで展開されていく二つの世界の対比も鮮やかで、様々な解釈の余地を受け手に許してくれました。
本稿では元夫が「夜の獣たち」を送りつけた真意をネタバレ込みで考察していきましょう。
またラストでレストランで待ち合わせを約束したのに来なかった理由なども読み解きます。
“復讐”の物語なのか?
さて、本作の解釈はというと、やはり大方エドワードからスーザンへの“復讐”が一般的なようです。
ここに至った背景としてわざわざ離婚して20年もの間疎遠だった人に小説を送りつけるということがありました。
しかも小説を送りつけられた元妻は元夫の小説を貶し、出来た子どもを中絶して簡単に別の男と再婚したのです。
だからその腹いせに小説を通してスーザンを絶望に突き落とし、ラストでレストランに来ないことで復讐を完了すると。
確かに復讐の動機としては十分ですが、ただ復讐がしたいだけならこんな回りくどいやり方をしなくても良いでしょう。
本稿では復讐以外の解釈として考察していきましょう。
「夜の獣たち」を送った真意
さて、本作で議論の的となるのは彼が「夜の獣たち」という小説を送りつけた真意です。
一見20年越しの復讐とも取れますが、果たして本当にそれだけなのでしょうか?
小説の内容も少し踏まえながらじっくり掘り下げていきます。
作品とは作り手と受け手との対話
まず一つ目に小説とは活字を通した作り手と受け手の対話であるという基本を示しています。
今では小説に限らず映画・テレビドラマ・アニメ・漫画など大量に物が溢れかえっているのです。
しかし、そうした状況が一つの作品とじっくり向き合うことを蔑ろにしているのではないでしょうか。
わざわざ元妻という具体的な相手を想定して作られた小説ですから、その意識は尚更強いはずです。
“対話”という基本に立ち返ることをスーザンだけなく受け手の私たちにも示していると思われます。
現実への自己認識が出来ているか
小説の内容はトニーとレイを主役にしていることからスーザンはトニーをエドワード、レイを自分と重ねます。
しかし、これこそが実はエドワードの引っかけであり、この時点で彼の真意は正しい意味で伝わっていません。
「夜の獣たち」において家族を守る力が無いトニーこそがスーザンのカリカチュアなのです。
そしてトニーを取り巻く殺伐とした人間関係は現実のスーザンを囲む悲惨な人間関係の縮図となっています。
この登場人物の比喩を正確に解釈出来るかどうかという読解力を試す真意が20年越しに試されたのでしょう。
“仕掛ける側”か”仕掛けられる側”かの見極め
そして何よりエドワードが試したのはスーザンが“仕掛ける側”か”仕掛けられる側”かの見極めです。