それは劣った存在である自分が優れた存在の生死をコントロールしているという一種の優越感を得られる行為だったのかもしれません。
よって、交配は愛情というより劣等感や支配欲が表面化されたものだったと考えられます。
千尋の夫が暴力で彼女を隷属させていたのと同じ様に、三井もグッピーを支配することで欲望を発散させていたのではないでしょうか。
それに気づいた三井は、憎むべき夫との共通点を目の当たりにし、その事実を完全否定したいと思ったはずです。
だからこそ三井はグッピーを殺したのだと考えられます。
三井の成長のきっかけ
夫が千尋に暴行するのを目撃しても何もできない三井ですが、最後には夫を殺します。
三井に行動を起こさせたきっかけは何だったのでしょうか
水島が自分に見えた
店長の妻に固執して殺した水島が今の自分の写し鏡に見えたと同時に、嫌悪感を抱いたのではないでしょうか。
側から見て、水島の行為は身勝手で無意味だったはずです。
だから自分が水島にならないために、彼と真逆の行動を取ろうと思いついたのかもしれません。
好きな女性に固執した水島に対して、千尋との思い出を全て捨てようと決意した三井。
そして今まで千尋を助けられずに怯んでいた自分をも捨てようと考えたのではないでしょうか。
忘れられたくないのに忘れていた
この世で最も辛いことは忘れられることだと感じていた三井。
そして千尋の全てを忘れたくないと思っていたにも関わらず、彼の記憶は妄想でした。
それはつまり彼も現実を忘れていたということに他なりません。
千尋のことを忘れていたと気づいた今、三井も他人のことはいえない立場です。
だとしたら彼女を辛い目に合わせていたのは三井自身であり、その償いをしようと考えたはずです。
だからこそ全てを捨てて千尋を守ろうとしたのではないでしょうか。
まとめ
千尋を助けようとして殺人を犯した三井。
夫から解放された千尋は幸せになれると思われますが、三井はどうでしょうか。
やっと石の裏から出られたのに、刑務所に送られて太陽を拝めない生活が待っているのは皮肉としかいいようがありません。
しかし出所後の彼は、誰からも忘れられる存在ではなくなっているはずです。
少なくとも千尋は三井を忘れることは一生ないでしょう。
その意味では彼も30年間の苦しみから解放されたのかもしれません。