以前ロッキーに負け、地位も名誉も何もかも失い、さらには愛する人さえも失ったイワン。
復讐することに人生をかけ、それを息子のヴィクターにゆだねていました。そのヴィクターは、ロッキー戦以後登り調子。
母国でも再び名誉を取り戻し始め、元妻との再会(穏やかではありませんでしたが)も果たしました。
その流れが良くなかったのか、上流階級の人たちや政治家との交流をするようになり、以前の生活とは全く違った様子になっています。
そのため、進化したアドニスの様子に驚き、足元をすくわれ、ヴィクターに敗戦の危機が迫っていても冷静に対処できませんでした。
自身の慢心が招いた目の前の結果にショックを受け、イワンはタオルを投げるのです。
勝機を見失った
確かに地元開催であり、ポイントにおいてもはるかにリードしているのはヴィクターです。
しかし、試合の流れではアドニスにかなり苦しめられた挙句、ダウンを連続で奪われました。
さらにこれまでが強すぎたため、長いラウンドの経験(4ラウンド以上)の経験がヴィクターにはありません。
スタミナもない中での連続ダウン、そしてアドニスは本気でK.O.のみを目指して向かってきている。
一方ヴィクター自身は、ダウンを奪われ立ち上がるも、2度目のダウンも簡単に取られてしまいます。
試合の流れとしては、あと数秒あればK.O.を取られるのはほぼ間違いないとイワンは判断したのでしょう。
ならば、と思いタオルを投げるのでした。
再び失う先に残るもの
イワンがタオルを投げ入れる直前、リングのそばで観ていたヴィクターの母親が「負ける」と判断して立ち去ります。
ドラゴ親子は、親子を捨てた彼女・ロッキーに対する復讐心、再び名誉な位置に戻るためだけに苦行を重ねてきました。
そのため母親が再び見捨てたその瞬間、イワンはまたすべてを失う気持ちに駆られます。
しかしロッキー戦と違い、イワンはすべてを失うわけではありません。目の前のヴィクターはまだ残り続けます。
もしも再び多くのものを失っても、目の前に「愛する息子」がいることは今後も約束されているのです。
愛する息子がただ負ける、しかも無理をしている状況で試合を続けることを「父親」であるイワンは望まず、タオルを投げたのでした。
ロッキーやアポロの二の舞
『ロッキー4/炎の友情』で、アポロを殴り殺したイワンは、ボクサーとしてリングに上がることの恐ろしさも知っています。
さらに、絶望も経験していることから、ボクシングにおける天国と地獄の両方を経験した人物の一人でしょう。
そんな多くの経験をしているイワンだからこそ、ロッキーやアポロの二の舞だけは踏まないようにしました。
見たことのある光景
目の前で気を失いそのまま死んでしまったアポロ、不屈の精神で立ち上がるアポロの危険性を分かりながらも止められないロッキー。
この二つをイワンは、試合の相手として見てきており、その後の経過もすべて知っています。
そしてアポロの息子アドニスと自分の息子ヴィクターが目の前で戦うと、ヴィクターはまさにイワンが見たことのあるアポロの姿でした。
おそらくセコンドの自分が止めない限り、自分で鍛え上げてきたヴィクターは戦い続けようとするでしょう。
そしてもしもヴィクターがそうなった時、どんな結末が転がってくるのか、イワンは経験してきているのです。
だからこそ、タオルを投げるのでした。今のイワンの立場は、言うなれば以前のロッキーの立場。
しかも愛する息子が戦っているあたり、ロッキーよりももっと苦しい思いをするであろう立場です。
タオルを投げ入れない理由がどこにあるでしょうか。
負けても「次」がある
それまで厳しくあり続けたイワンですが、最後の最後に「次」があることを考えました。
一度は地獄を経験しましたが、ドラゴ親子は再び地元に応援されています。負けても次はあるのです。
ここでもしも息子を失くしてしまうと、確実に「次」はないでしょう。そう思ったイワンは「次」にかけてタオルを投げるのでした。