ここで、考察の根拠となるのが、デーヴ・グロスマンの著書である「『戦争』の心理学・人間における戦闘のメカニズム」です。
本書によると、戦闘時の人間は、物事がはっきり見える、耳が研ぎ澄まされるなどの特殊な体験をするといわれています。
これは、死と隣り合わせの戦場で闘う兵士に起こりやすいとされているのです。
つまり、鏡に頭をぶつけたことで失血死するかもしれない、心身ともに死と隣り合わせの状態のカイジにもいえると考えられるでしょう。
作中でも、鏡に頭を叩き付けた後に「常軌を逸してこそ勝ちへの道が開かれる」という旨のカイジの発言があります。
このカイジの発言はつまり、自身を極限状態にすることで、利根川を倒す究極の一手を導き出せるという意味なのです。
石田の金券・賞金の行方は?
作中において、カイジと交流を深めた人物のなかでも、カイジ自身の心境を大きく変えた人物こそ「石田」です。
鉄骨渡りにおいてリタイアしてしまった石田ですが、鉄骨から落ちる前に自分の金券をカイジに渡しています。
しかし、その後の金券や賞金の行方については明確な描写がありません。
そこでここでは、石田の金券や賞金の行方について考察するとともに、石田の金券が表す意味についてまとめていきます。
金券は石田の娘の手へ
鉄骨渡りにおいて、カイジの手へと渡った石田の金券は、エンディング直前でパチンコ店で働く石田の娘に封筒とともに渡されているのです。
封筒には石田の金券とともに少額の現金が入っていますが、この現金は借金返済後に残ったカイジの金であることがわかります。
その理由として、カイジはEカード挑戦前に、石田の金券を換金するように懇願しますが、黒服の男達や帝愛グループの会長から断られているのです。
これは「勝者のみが金を手に入れることができる」というゲームの根本的なルールに基づいた、当然の結果といえるでしょう。
しかし、何とかして石田の想いを実現してあげたいというカイジの想いが、ゲームで得た金を石田の娘へ渡すという形になって表れたと考えられます。
次回作への伏線
金券が石田の娘に渡るというシーンは、次回作の伏線にもなっていると考えられるのです。
その理由は、映画の最後で金券に書かれた父親の名前を見て驚く、石田の娘の表情がクローズアップされていたことにあります。
カイジが石田の娘に金券を渡して作品が完結するのであれば、娘の表情や行動まで細かく表現する必要はないでしょう。
しかし、石田の娘が金券を手にした後、持ち主を探そうとする場面まで細かく描かれているのです。
また、帝愛のゲームに石田が参加した痕跡でもある金券を手にしたことで、娘が帝愛が運営しているゲームを遅かれ早かれ知ることになります。
つまりその後、何らかの形で父親の死の真相を解き明かそうとするはずでしょう。
これらを踏まえると、石田の金券が次回作の伏線になるとともに、次回作に石田の娘が登場することを示唆していると考えられます。
サブタイトル「人生逆転ゲーム」の意味とは?
「人生逆転ゲーム」というサブタイトルは、作中に登場した数々のゲームを表す以外にも、様々な意味が含まれているのです。
そこでここでは「人生逆転ゲーム」というサブタイトルに隠された意味について考察していきます。
カイジの人生観・心境の「逆転」
人生逆転ゲームでの勝利を通して変化したものとして、最初に挙げられるのがカイジの人生観と心境です。
帝愛が主催するゲームに参加する前のカイジは、自堕落な日々を送っています。