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映画『ピエロがお前を嘲笑う』は2014年に公開されたドイツの犯罪サスペンス映画で、少し特殊な作りの作品です。
監督はバラン・ボー・オダー、トム・シリングとトリーヌ・ディルホムの演技のやり取りが見所となっています。
物語は警察へ自首してきた天才ハッカー・ベンヤミンの供述がミスリードを誘いながら予想外の方向へ転ぶのです。
その鮮やかなラストへ向けてのどんでん返しの手法は思わず唸ってしまう凄みがあり目が離せません。
ネットの繋がりを地下鉄に喩えた演出なども非常に丁寧に組み込まれており、その完成度の高さは群を抜きます。
今回はそんな天才ハッカー・ベンヤミンが自首した意図をネタバレ込みで考察していきましょう。
またハンネが最後にベンヤミンを逃した理由や彼が多重人格に見せかけた目的なども併せて読み解きます。
認知論とピエロ
本作を考察していく上でのとても大事なテーマは「人間は見たいものしか見ない」という一言です。
これは誠に真理を突いた一言で、人間はあらゆる情報の中から本当に見たいものしか見たがりません。
100%ある情報の中から90~95%を無意識の内にそぎ落し、残りの5~10%を有益な情報として受け取ります。
インターネットの普及で二次情報・三次情報・四次情報と情報が大量に溢れかえる現代社会では特に顕著です。
天才ハッカー・ベンヤミンはそうした現代社会の仕組みと人間の心理を逆手に取って実に巧妙な策を仕掛けます。
では何故ピエロなのかというと、ピエロの仕掛けるマジックショーこそ観客の見たいものしか見せないからです。
しかしその5~10%の見たいものが常々真実ではなく嘘だった場合はどうなるのでしょうか?
その部分に着目しながら本作を考察していきましょう。
天才ハッカーが自首した意図
さて、本作最大の謎はハッカー集団”CLAY”のリーダー・ベンヤミンがわざわざ自首してきた意図です。
ネタバレ込みで本編に散りばめられた様々な情報から読み解いていきましょう。
等価交換
大前提としてこの自首は決して本当の「自首」ではなく「等価交換」であることを忘れてはなりません。
ベンヤミンはMRXの情報を渡すことでハンネの停職処分帳消しと引き換えにハッキング界のヒーローとなりました。
つまりベンヤミンにとって今回事情聴取という名の「取り引き」を行ったハンネはビジネスパートナーです。
100%の味方ではないが、だからといって相容れない「敵」でもないというやや複雑な込み入った関係になります。
逮捕前提であれば二人のやり取り・掛け合いが作品の見所になるわけがなく、最後まで関係性はイーブンです。
よってラストでベンヤミンが釈放されたラストの結末は二人がwin-winの関係であることを意味します。
巨大な悪に向かう力が欲しい
二つ目にはCLAYがMRXにまともに相手されておらず、勝つためにはどうしても警察の巨大な力が必要でした。
いってみれば天才ハッカー・並びにハッカー集団フレンズはハンネでも持て余す力を持った悪の一大権力です。
一人では勝てない相手でも情報共有による相乗効果でフレンズを上回る力を発揮することが可能となります。
共通の敵を見出した者同士が利害の一致によって共闘する呉越同舟が自首の意図に隠されているのです。
表面上こそベンヤミンの情報操作に一喜一憂しがちですが、視野を広げて俯瞰すると不思議でも何でもありません。