出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B01N7WHBH7/?tag=cinema-notes-22

映画『永い言い訳』は同タイトルの小説の原作者・西川美和自らが監督・脚本を務めた2016年公開の作品です。

原作者の作家性が色濃く出ており、タイトルからも分かるように非常に暗く悲しみに満ちた物語となります。

キャストには本木雅弘に竹原ピストルと非常に落ち着いた実力派が出揃ったことで戦力も充実していました。

第41回トロント国際映画祭スペシャルプレゼンテーション部門出品作品でもあり、以下を受賞しています。

第90回キネマ旬報ベスト・テン助演男優賞、日本映画ベスト・テン第5位
第71回毎日映画コンクール男優主演賞・監督賞

引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/永い言い訳

本稿では幸夫がラストに電車の中で涙を流した意味をネタバレ込みで考察していきましょう。

また、妻の未送信メールに怒った理由や陽一が妻の留守電メッセージを消した理由も読み解きます。

“死”と向き合うということ

新版 死とどう向き合うか

本作は世界観も物語も非常に暗いながらも、訴えてくるテーマは実にストレートです。

それは“死”と向き合うという、とても根源的でありながら再現するのは非常に難しいことでした。

人間は凄く不思議で楽しい時は”死”なんて考えないのに辛くなると何故か”死”について考えます

本作でいえば交通事故で母(妻)を亡くした二つの家族が正に突然死の恐怖と向き合うことになるのです。

子供も家庭もありながらそれがバラバラに壊れてしまう程死というものを奥底で恐れています。

そしてそれを実感のあるものとして受け入れるには非常に長いこと時間がかかるわけです。

自身の妻の死を実感出来なかった幸夫を中心に語られる“死”とは何か?に注目して見ていきましょう。

電車で涙を流した意味

にっぽん鉄道風景

本作の醍醐味は何よりもラストシーンで象徴的に描かれている電車で涙を流す幸夫の姿です。

これまで自分の妻の死と向き合うことが出来ず煮え切らなかった小説家が初めて涙を流しました。

果たしてそこに込められていた意味とは何だったのでしょうか?

もう二度と見られない夏子の笑顔

いまラクになる「笑顔」の本~男性編~

一つ目がもう二度と見ることが叶わない夏子の笑顔への複雑な感情でした。

それは決して一言では表せませんが、一番強くあったのはその笑顔を奪ってしまった後悔でしょう。

凄く感動的に描かれていますが、幸夫と夏子の関係は冷めており内緒で不倫していました。

作家としての活動にばかりかまけて家庭を顧みない夫とそんな夫に愛想を尽かしていた妻。

もし死ぬ前に二人がわずかでも歩み寄って大切にしていたらこの笑顔がまた見られたかもしれないのです。

それが「過去の思い出」となってしまいもう戻らない無常感が幸夫を襲ったのではないでしょうか。

大宮一家への羨望と嫉妬

嫉妬と羨望の社会学 (世界思想ゼミナール) (SEKAISHISO SEMINAR)

二つ目にあったのは大宮一家への羨望と嫉妬だったのではないでしょうか。

何せ妻の死一つであれだけ堕落し、妻の未送信メールで激怒し、更には大宮一家を間近で見てきてのこれです。

自分の傍では笑ってくれず冷めた表情しか見せなかったのに大宮一家と一緒だと凄く生き生きししている妻。

単なる「隣の芝生は青い」を通り越した生々しい現実が彼の心に深く刺さったことがこの涙から窺えます。

決して正の感情だけではなく、こうした負の感情も含めて解放する意味合いが強くあるはずです。

罪と罰

罪と罰(内田不知庵訳)

そして三つ目にあるのが愛人を作って不倫した罪と罰の懺悔の涙ではないでしょうか。

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