やれることは全部やったはずです。それならばもう人生に悔いはないのかもしれません。
死んでしまえば父親から暴力を振るわれることもなくなります。
残酷な現実からもうすぐ解き放されると悟って笑ったのではないでしょうか。
紬が餓死した理由
この映画の中では手首を切るシーンが何度か出てくるのですから、紬の死因もこの方法が用いられそうなものです。
カイコだから
解雇はまゆから出ると2日しか命がもたないという話がありました。口がなく食べられず、カイコは餓死する運命なのです。
彼女が自分をカイコに例えていたのかは分かりません。
沖縄へ勝手に行こうとした紬に、父親が食事を与えずに監禁した可能性も大いにあります。
どちらにせよカイコと紬を同一視させようとする死因でした。
いつ繭から出た?
紬=カイコとするならば、餓死するにしても成虫になっていなければなりません。
ではいつ紬は繭から出て成虫になったのでしょうか。
それを知るには、カイコが人間のために糸を吐き続けるという習性がヒントになりそうです。
紬(カイコ)がミユリ(人間)のために糸を出していたのなら、ミユリが紬を必要としなくなった時点で紬は糸を出すのを終えるのだと考えられます。
そう考えると駅のホームで脚の傷から糸が出ていたので、その時はまだ紬は成虫ではありません。
ミユリが紬を必要としなくなった瞬間は、紬をホームに置き去りにした場面です。
保護された紬が笑ったのも、ミユリにとって自分が不要になったと悟ったからではないでしょうか。
人間のために糸を出さなくなったカイコは繭から出て餓死する。その流れに沿って紬は餓死したのだと思われます。
ラストに手首を切った意味
いじめを受けるたびに手首にカッターを当てるミユリですが、切ることはありませんでした。
いじめもなくなって東京へと新たな人生を踏み出したミユリ。なぜ彼女は手首を切らなくてはいけなかったのでしょうか。
痛みは生きていい証拠
紬の死を知ったミユリは喪失感を味わったでしょう。そして自殺を考えたに違いありません。
ですがそんな単純な理由でミユリは手首を切ったわけではないように見えます。
人間が痛みを感じるのは生きていいという証拠だと紬は言いました。
その言葉をミユリは思い出したのではないでしょうか。
痛みを感じるために手首を切り、その痛みによって「自分は生きていいんだ」と確認したのかもしれません。
汚いものを出す
夢の中の紬は、人間の中には汚いものが詰まっていると話ていました。
その汚いものを外に出す行為が、傷口から糸を出すことだったのかもしれません。
それをミユリに置き換えると、ラストに手首を切ったのは、そこから汚いものを出したかったからではないでしょうか。
ではミユリの中にたまった汚いものとは何か。
自分を広い世界へ連れ出してくれた紬を裏切り、その死も知らずに東京へ出ようとした不誠実さ・後ろめたさだったのではないでしょうか。