彼女は独立出来るようにと開業資金一千万をもコツコツと堅実に溜め続けていたのです。
これは正に運だけで社長になってしまった壮介と自ら下準備を進めていた千草との対比でしょう。
学歴や職歴だけを見ると輝かしいのは壮介ですが、人間として賢かったのは千草でした。
どちらがより老後のことをきちんと視野に入れ考えていたかはこのシーンで一目瞭然です。
そう、このシーン最大の真意は壮介と千草の生き様の違いを対比させることにありました。
千草が離婚しない理由
こうして借金まみれとなり故郷の盛岡へと帰ることになった壮介は千草に離婚を切り出します。
しかし彼女は決して離婚を認めず「結婚を卒業する」=「卒婚」という形を取りました。
何故千草は離婚をしなかったのでしょうか?
夫婦の役目はしっかり果たした
まず一つ目に壮介も千草ももう既に夫婦の役目である「家族を守る」ことは成し遂げたからです。
そのことは序盤でも壮介が口にしていましたし、一方的だった久里との恋も否定していません。
長年苦楽を共にして色々乗り越えたこの二人は好き嫌いで論じるレベルを超えたところにいます。
もう無理して一緒に居る必要はなくなり、それぞれに好きな場所へ行けばいいと思ったのでしょう。
だからこそ「離婚」ではなく「卒婚」という形を取ったのです。
等身大で生きる
二つ目に千草は二ヶ月に一度壮介の髪を染めにわざわざ戻ってきてくれるといいました。
彼女は自分の美容師としての腕を生かした等身大の生き方を提示したのです。
その証拠に壮介も盛岡に帰った後故郷のラグビー仲間との時間は凄く楽しそうでした。
つまり、盛岡での暮らしが実は一番壮介に合っていたのではないでしょうか。
そのことを見越した上で千草は自分達が納得出来る生き方にしたのです。
夫婦の形は千差万別
そしてこの選択で一番強調されていることが「夫婦の形は千差万別」だからではないでしょうか。
一見温和な家庭で夫婦な壮介と千草ですが、必ずしもその形が一つである必要はありません。
特に千草の方は壮介の正確の問題や仕事上の欠点は指摘しながらも、夫婦のこだわりは特にない人でした。
即ち理想ありきの夫婦生活ではなく、現実の流れと共に理想の夫婦の形が作られていったのです。
その自然の流れに逆らわずに生きてきたからこそ卒婚という形に至ることが出来たのでしょう。
ラストシーンではごく自然に笑いながら散歩する二人の姿がそれを示していました。
悩み相談後に久里がすぐ帰った理由
壮介は広末涼子演じる久里に恋をしましたが、彼女が持ちかけたのは作家になれるかどうかの相談でした。
そして、その相談が終わった後久里は壮介を一瞥もせず即座に去ってしまったのです。
ここではその理由を読み解いていきましょう。
亀の甲より年の功
まず一つ目の理由として、壮介のアドバイスが「亀の甲より年の功」だったからです。
壮介が久里に話して見せたのは以下の内容でした。
35歳になって芽が出ないのならもう絵本作家になる夢を諦めた方がいい。それまでの10年が無駄になる?いや、10年で済む。
このまま夢を追いかけていたら人生が無駄になる。やめる勇気も必要だよ引用:終わった人/配給会社:東映
これは一見冷たい現実論ですが、一方で銀行マンの出世街道から外された壮介の味わった苦みもあります。