そのことに気付いたからこそこのタイミングで改めて自白する決意をしたのではないでしょうか。
もしこのまま生き続けていたら一生罪に苛まれ共倒れという最悪の事態に発展していたはずです。
それを避けることが出来たのが不幸中の幸いでしょう。
石神が工藤を信用できると言った理由
石神は工藤という、靖子がお付き合いしている男性に最初は嫉妬心から排除しようとします。
しかしそんな彼が工藤は信用出来ると言ったのです。果たしてどのような理由があったのでしょうか?
願いは花岡親子の幸せ
石神が願っていたのはあくまでも花岡親子の幸せだったのです。
それは手紙にもそう書いてあり、彼の行動は全て花岡親子を思うが故の指示と行動でした。
だからこそ決して自分本位ではなく親子本位で動くことが出来たのではないでしょうか。
ここがギリギリの所で石神をストーカーにしていない絶妙なバランスです。
天才数学者という理性の強い人物もあったのでしょうが、彼は意外にも情に流されていません。
花岡親子を救った立役者
二つ目に工藤が花岡親子を富樫という元夫から損切りするきっかけを与えてくれた人だからです。
自分とは違い社会人としてしっかり自立していた工藤は実績も経済力もある人間でした。
つまり、工藤は石神にとって「本当なら自分がなりたかった」立ち位置の人かもしれません。
損切りの便宜を図り、弁当屋を開業出来るようにしっかりと取り計らってくれた恩人。
それに対して自分は皮肉にも花岡親子に「救われた」側の人間でした。
そのことを冷静な頭で客観視出来たからこそ彼を信用出来るといったのです。
見せかけの作戦
そして三つ目の理由は工藤への嫉妬やストーカーじみた行為も全て周囲を欺く知略だったからです。
この点で工藤と石神を対比させると工藤が「陽」なら石神は「影」の人物ではないでしょうか。
工藤は正当なやり方で正攻法によって花岡親子を崖っぷちから救い出し自立させました。
それに対して石神は富樫殺しの罪から花岡親子を解放するために罪を被ることを選んだのです。
非常に異端なやり方であり、時代や国が違えば彼こそ影の救世主になれたかもしれません。
そうしたことも含めて全てを計算尽くの作戦としてやっていたことが窺えます。
友を告白する湯川の心情
こうしてかつての親友の罪を告白する湯川でしたが、彼の心情はいかばかりのものでしょうか?
人間味が希薄といわれがちな湯川が本作において見せた揺らぎを考察していきます。
失望
一番に湯川の中にあったのは天才と認めた親友が道を間違えたことに対する失望でしょう。