劇中で殉職したと思った父の部屋に、ティムの為のチケットやティムの為の部屋が用意されていたシーンは父親の不器用な愛を感じずにはいられません。
母親と息子の関係とは違った男同士の親子愛は、時としてとても不器用なものです。
自分を避ける息子を愛しつつも、どうすることも出来ない父親の姿は本作品の一番の見どころといっていいかも知れません。
ティムの父親愛
子供は無条件に親を愛し親を欲するものです。
愛されたいのに愛されなかったというティムの思い込みが、父親への反発という姿で描かれています。
吉田警部補はハリーがティムをどれだけ愛していたか知っていたのでしょう。父親の存在に無関心を装うティムを見つめる吉田警部補の姿が、切なさを引き立てています。
ティムが父親の部屋で自分への愛を知ったとき、父を避けてきた自分を後悔していますが、愛情は時として、言葉にしなければ伝わりにくいもので、気づいたときには遅すぎることもあるのです。
ロジャーが父親に反発する理由
黒幕ハワードの息子であるロジャー・クリフォードは、劇中でミスリードを誘うキャラクターですが、息子として父親への反発もしっかり描かれています。
ロジャーは父の悪事を知らず、ポケモンとばかり慣れ親しむ父親に反抗しています。ポケモンもあまり気にいっていない様子です。
深読みすれば、ポケモンに父親を取られ嫉妬して育ったと考えられます。
親であれば、子供の嫉妬する心も愛情の裏返しであることを感じるのではないでしょうか。
ミュウツーは絆が切れないことを知っていた
森の奥でティムとピカチュウ(ハリー)を待ち続けていたミュウツーは、ふたりの絆を信じていました。
息子ティムは必ず父親を助けに来ると信じていたからこそ、ハリーの体を預かっていたのです。
ミュウツーの想い通り記憶をなくしても二人の絆は切れることなく、強い意志で結びついていました。
この絆こそポケモンの魅力だといえます。
可愛いだけじゃない絆の物語
己の欲の為に街をつくり上げた男に、絆の力で勝利を収めたティムとピカチュウですが、よく考えてみるとティムと出会ったのは記憶を失ったハリーであり、全編通してティムとハリーの物語なのです。
これまでのピカチュウとは違う父と子の絆の物語といえます。
子ども向けといわれる「名探偵ピカチュウ」ですが、人の心の闇を考察すれば大人も十分に楽しめます。親子で見に行く最高の映画ではないでしょうか。