それは、シルバーには足を得ても生きていく意味がなくなり、愛する人を喰らって人魚に戻っても苦しくなるだけだからです。
人魚にとって人間の男は「餌」にすぎなかったものが、シルバーにとってミェテクは多くの犠牲を払っても愛したい人だったのでしょう。
首に噛み付いた理由
シルバーとゴールドも二人一緒に美しい歌声で歌うことが大好きでした。シルバーはその命ともいえる声と引き換えに足を手に入れたのです。
ミェテクはそんな姉を捨て生かしながら見殺しにしました。妹のゴールドにはそれが許せなかったのでしょう。
人魚がコミュニケーションや歌うことで最も大切にしているのが声帯なので、ミェテクの喉を食いちぎることで最善の復讐をしたのです。
水の中に戻ったゴールデンの想い
姉のシルバーを失い人間に不信感を抱いたゴールドは、既に人を喰らっていることにも気づかれています。
ミェテクを死に追いやった以上、ゴールドは陸では暮らすことができないと悟ります。むしろ、シルバーのいない場所にいる意味もありません。
少女から大人へ心がゆれる人魚
シルバーとゴールドは陸に憧れる無邪気な少女でした。ほんの好奇心で人間に近づき捕食する意外の興味も湧きました。
人魚の世界は自由気ままに歌ってすごすだけで悩むこともなかったのでしょう。
陸でシンガーとして人気者にはなっても、それは人間の私利私欲の道具になるだけで、自由になれないジレンマという感情を覚えたのです。
人魚の姉妹にとって陸の生活は環境の変化だけではなく、心の変化も急激に変わりゆれていたのでした。
海に戻っていく人魚
ゴールドは陸で人間の事を知りました。その正体は利用するだけ利用した後は使い捨てるような冷たいものだということです。
ゴールドが海に戻って行く時に聴こえた歌は、海の泡になったシルバーの歌声ではないでしょうか。
絶望のぬかるみへと沈んでゆく。一つだけ確かなことがある。あなたの腕の中よりここは暖かいわ。
あなたの手と唇より優しいわ。今私はこうして海の中にいる…憐れむふりはしなくていいの。
海にいた方が私は幸せ…。
引用:ゆれる人魚/配給:キノシフィアット
海に戻ったゴールドは年頃になった人魚たちに、人魚と人間は共存できないことを歌い継ぐのではないでしょうか。
童話と伝説の「人魚」
アンデルセン童話「小さな人魚姫」
アグニェシュカ・スモチンスカ監督はこの映画を製作する時に、自分が見てきた共産国時代(1980年代)のポーランドをイメージしていました。