エリもまたオスカーに会いたい夜に壁の前に座りモールスを待つように佇んでいる姿が、健気で純粋無垢な少女そのものに見えました。
スウェーデン語で「小さなキス」
バンパイアと殺人の共謀者となった2人でしたが、次の街に向かう列車でのモールスのやりとりは純粋そのものです。
オスカーの足下にある大きな箱を叩くモールスはスェーデン語で“P・U・S・S”で、その意味はキスをする小さい音「チュッ」を表すものでした。
原作『MORSE -モールス-』に込めたメッセージ
小説について
原作の『MORSE -モールス-』は2004年に発刊された、スウェーデンの作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストのデビュー作です。
小説の中ではエリの謎も描かれており、エリは200年前のヨーロッパで貧困家庭で生まれた為、12歳の頃に去勢手術し成長を止められました。
それは親が富裕層の児童性愛者に売る為でした。エリがその後のどのようにして吸血鬼になったのかも描かれています。
作中でオスカーがエリの下腹部を見たシーンがぼやけていたのは、内容が日本では衝撃的だったための苦肉の策でした。
現代の社会問題
また、原作は本作のほかにもアメリカのハリウッド版として、2010年に同名映画が公開されました。
ハリウッド版はいじめ、殺人、離婚、幼女や少女への性的嗜好や恋愛感情などの社会問題の闇を浮き彫りにしています。
エリの同居人ホーカンは父子の関係ではなく児童性愛者のホーカンが、エリを性的対象とする代わりに血液収集のため殺人をする男です。
人間社会こそがホラー
スェーデン版の本作は社会の闇を暴くところには焦点をあてずに、人の内面や性癖の恥部といった汚い部分を過度に演出はしていません。
その代りに内気で孤独な少年と生き抜くことだけに貪欲な怪物を、中性的で美しい少年を残虐に演出することで悲壮感を強調しています。
そして、表面的には幼い人間とヴァンパイアの純粋な恋愛物語にみえますが、エリは200年を生きながらえた老人であることに違いはありません。
年老いてきたホーカンに辛くあたり、最期は血を飲み絶命させる冷酷さもありますから、まだ子供のオスカーをたぶらかしたとも見れるのです。
そういう意味でこの作品は自らの心眼で闇を見抜く、深い考察ができる良作といえます。