このように2人は、本来であれば従うべき神・父親という存在を心から信じられなくなっているのです。
神や父親への信仰心と「自分の力で運命を変えていける」という欲のジレンマを解決するため、手を組んだのでしょう。
強い欲望を持っている
また、ハムとトバルはどちらも強い欲望を持っているという点も、手を組む理由になると考えられるでしょう。
トバルは、自分が生きるために略奪や殺戮・支配を繰り返していました。
神の啓示を無視し、ノアが建造した巨大な箱舟に乗り込むことによって、何が何でも生き残ろうとしました。
つまりトバルは、ノアを殺して得られる生に対する強い欲望を抱えていると考えられます。
またハムは、妻のイラと仲睦まじい兄・セムの様子を見て妻が欲しいとノアに頼むなど、劣等感を抱いていました。
また、いつまでもノアやセムのような大人の男性になれないことに対して、焦りや怒りを感じている描写も存在します。
ここから考えると、ハムは自身の居場所や存在意義に執着していたといえるでしょう。
しかし、ハムの身勝手な行動や自立をノアは許しません。
そのため、ハムからすると父親であるノアの存在は、自分の存在を否定する邪魔なものと感じたことでしょう。
このように、ノアの殺害に対する2人の欲望の方向性と利害の一致が、手を組んだ理由であると考えられます。
ハムがトバルを殺害した理由は?
作中で度々手を組んだハムとトバル。しかし終盤において、ハムはナイフでトバルを殺害していまいます。
何故つい先程まで手を組んでいたはずのトバルを、ハムは殺害してしまったのでしょう。
ハムがトバルを殺害したのは、父親であるノアがトバルに襲われて殺されそうになっているシーンでした。
ノアを殺害することしか考えていなかったトバルの後ろから、咄嗟にナイフで刺し殺しています。
ここから考えると、ハムの心に残る家族への愛情によって、父親を守るために殺害をしたと考察できるでしょう。
その理由は、トバルを殺害する直前までのハムの行動です。
トバルと一緒にノアの殺害を企てていた時や、ナイフを手にした時のハムは、一貫して殺害をためらっている様子でした。
これはノアに対する憎しみと愛情の間で戸惑い、どうすればいいのかわからなくなっている状態であったといえるでしょう。
しかし、殺害されそうなノアの姿を目の当たりにしたことで「このままでは大切な家族が皆殺される」と感じたのです。
イラが女の子を出産した意味とは?
セムの妻である女性・イラは、子供が産めない身体であったものの、祝福を受けて双子の女の子を出産します。
「神が起こした奇跡」ともいえる、イラが女の子を出産したシーンには様々な意味が隠されているのです。