ここにこそ本作が単なる低俗な官能映画に終始しない凄みがあります。
死期に近づいていくとは思えない程2人の肉体関係は穏やかで慈しむようでした。
それがラブドールやダッチワイフという、単なる性欲を満たすものとの決定的な差でしょう。
園子が死んだにも関わらず穏やかだったのは2人が最後の最後に情で深く繋がれたからです。
「自分を作って」と言った理由
哲雄は職場で競合会社から送り込まれたスパイにデータや技術を盗まれてしまいます。
証拠もないので訴えることが出来ず、新しいラブドールを作ることになりました。
その時に妻の園子が「私を作って」と言うのですが、その理由は何でしょうか?
哲雄の中に残りたい
まず1つ目に妻の園子が哲雄の心の中に残りたかったからではないでしょうか。
死期が近い状態の園子が彼の為に出来ることを必死に考えてのことでした。
ずっと抱えていた秘密も受け入れ、死ぬのを分かっていながら寄り添ってくれるのです。
こんなに尽くして毎日抱いてくれる人がいれば何としても残りたいものでしょう。
何とかして自分が哲雄と共に生きたという証を忘れ形見として遺したかったのです。
会社への恩返し
2つ目に園子なりの会社に対する恩返し・社会貢献だったからです。
キンキン社長のお陰で園子は哲雄と知り合い、結婚することが出来ました。
即ちキンキン社長がいなければ哲雄という素敵な人と結婚し愛を知ることはなかったでしょう。
だから単なる忘れ形見というだけではなく、仕事として社会貢献の意味もありました。
元々モデルだったこともあって、自信があったものと思われます。
哲雄の職人としての腕
そして何よりも哲雄のラブドール職人としての腕を信頼していたからではないでしょうか。
単なる綺麗事や愛だけでも社会貢献だけでもなく、哲雄の職人としての技術があってこそです。
哲雄は園子と結婚してからどんどん仕事で成果を出して会社へしっかり貢献してきました。
その職人としての腕がああったからこそ、哲雄なら完璧なラブドールを作れると見込んだのです。
結果は大成功で、全てにおいて園子そのものとしか思えないオリジナルのラブドールを完成させました。
正に他社にはどう足掻いても真似することの出来ない最高傑作が誕生た瞬間でしょう。
哲雄の嘘
そんな職人としても夫としてもハイスペックな哲雄ですが、1つ大きな嘘を抱えていました。
それが物語として深いテーマに繋がっているのですが、何だったのでしょうか?
隠されたテーマと共にこの重要な嘘を読み解いていきます。
ひろ子との浮気
まず哲雄がずっとついていた嘘とはひろ子とのたった1度きりの浮気でした。
しかも肉体関係まで結んでしまい、ラブドールのことも打ち明けています。
これはそれまでずっと園子と心も体も離れていたこととは対照的です。