その後のイギリスが第二次世界大戦を勝利していく国民統合の精神的支えになったといわれているのです。
当時イギリス政府内にあったナチスドイツとの和平交渉(ナチの軍門に降るということ)の雰囲気を打破する役目もありました。
また撤退に際し、多くの自国兵器・武器を破壊してきたこと。
ダイナモ作戦でも多くの軍用艦船や航空機を失ったこと。
これらは、こののちアメリカを欧州戦線に引っ張り出す大きな動機になったといわれいてます。
さらに多くの若い兵士を救ったことはこの後の戦力確保に大きな貢献をすることになりました。
しかし、殿(しんがり)を努め撤退を援護するためドイツの攻撃を受け止めていた3万人のイギリス兵と2個師団のフランス兵が問題。
彼らはドイツの捕虜になり、現地に残してきた連合軍の船舶、兵器、武器、車両、戦車らは自爆させたりドイツ軍に破壊されています。
兵士と兵器のダメージは大きかったという事実は知っておく必要があります。
チャーチルは、「ダイナモ作戦が勝利を示すものではなく、撤退しても戦争には勝てない」と国民に知らせました。
そして、さらなる団結を呼びかけたのでした。
一方で彼は戦後「ダイナモ作戦は撤退だが、あれがなければその後の英国はまったく違ったものになっていただろう」とも語っています。
それほど重要な作戦だったのです。
ノーラン監督のこだわり①映像編
マイナスの作劇法
まず観ていて驚くのが、シーンのほどんどがダンケルクの海岸とその周辺に限定されていることです。
(民間船と空中戦は除いて)閉鎖された範囲で撮影することでサバイバルの緊張感とサスペンス性を狙ったようです。
更に、セリフが殆ど無いことも挙げられます。
手持ちのカメラで人物のアップを多用した映像の組み立てと現場のリアルな音、それと緊張を誘うハンス・ジマーの音楽。
予断を排したリアルな戦場現場の追体験を狙っています。
加えてドイツ兵の姿も出てきません。
実際の戦場でも敵兵の姿は見えず、飛んでくる砲弾や銃弾の音、姿が見えない戦闘機、爆撃機の攻撃に晒されるわけです。
艦船の中や海中で聞こえる着弾音(爆発音=砂浜独特のくぐもった音も)は、姿が見えているより強い恐怖をリアルな感覚を生み出します。
砂浜や堤防という遮蔽物がない状態で戦闘機に銃撃されるというのは本当に恐怖を覚えます。
こうしたシーンを撮影するためにノーラン監督は、昔のサイレント映画やヒッチコックに代表されるサスペンス映画を何本も鑑賞。
そうすることで「映像のみをして語らしめる」ことの手法を勉強したといいます。
ゴーグルなしでバーチャルリアリティを体験して欲しかったとも。
「私はこの映画を、言葉や物語ではない純粋な映画体験にしたかった」
引用:町山智浩著「最前線の映画を読む」(集英社インターナショナル発行)
と語っている通り、陸、海、空と登場する主要人物はいますが、原隊の仲間すら分からない状況で、情報は混乱します。
正しい情報はビーチの兵士に伝えられません。
そのため闇雲に海に入り溺死するもの、ドイツ軍の攻撃にまざまざと死んでいくものなど、何が起きるのか、何をしたらいいのか分からない状況下が現れていきます。
自分の事しか考えられないという究極の恐怖と混乱が生まれるのです。観客は彼らを通し戦場の恐怖を追体験するわけです。
そうした流れの収斂先が「ダンケルク」とは何だったのだろうという点であるわけです。
そして、観た人に肌感覚で戦争を感じて貰える作品にしたかったと思われるのです。
ノーラン監督のこだわり②美術編
徹底した本物志向
CG嫌い、デジタルカメラ嫌いで知られるノーラン監督。今回使用したのはIMAX70mmアナログフィルムと65mm大判アナログフィルムでした。
CGを使わず戦争映画を作る、というにはキャメラマン的観せかたの工夫ももちろんです。
一方で、ロケにおける美術監督の手腕も大きくものをいいます。
まずノーラン監督は、美術監督のネイサン・クローリーとダンケルクの海岸について考えます。
兵士救出用の防波堤を(戦時中のものが多少残っていましたが)作り直し、トラックを並べて作る応急桟橋も実際に作ります。
さらに浜辺の兵士の集団はミニチュアではなく、実際の大きさのダンボールを切って繋げて作りました。