弁護士を立てて資金まで用意したはいいものの、肝心の部分で詰めの甘さが目立ちます。
本作の隠れたテーマの1つとして”コミュニケーションの断絶“が浮き上がるのです。
兄弟だからといって全てにおいて共通の認識・見解を持っているとは限りません。
大事なことはきちんと言葉にして話さないと伝わらないものです。
再び便利屋に戻った理由
パトリックの後見人となったリーは紆余曲折の末、再び便利屋に戻りました。
友人のジョージに甥を預け、時に仲良く釣りに遊びに行く距離感となったのです。
このような選択をした理由を考察していきましょう。
過去の悲劇を乗り越えられなかった
1番の理由は冒頭に書いた過去の悲劇をリーが乗り越えられなかったからです。
彼の過去は想像を絶するもので、暖炉をつけたままビールを買いに行ってしまいました。
そのせいで自宅は全焼し娘3人も焼死、妻のランディとも離婚することになったのです。
自業自得による因果応報ではありますが、大事な娘を失った悲しみは計り知れません。
悔やんでも決して元に戻らない過去であり、乗り越えられるような問題ではないのです。
パトリックの面倒を見ることになると、どうしても罪悪感で心が一杯になってしまうのでしょう。
過去のトラウマを再現しそうになった
2つ目に、リーは過去のトラウマを物語終盤でまた再現しそうになってしまいます。
泥酔したその体でトマトソースを温めようとした時また火事を起こしそうになるのです。
下手すれば、ここでパトリックごと家が全焼するという大惨事に発展していたでしょう。
リーにとってみればそれはまだ癒えてない傷口に塩を擦り込まれるのと同じです。
乗り越えようと思っていたものが乗り越えられないのだという諦観でした。
これが引き金となって、リーの心は完全に折れてしまったのではないでしょうか。
家庭・家族に幸福を感じられない
そして3つ目に、リーはもう家庭・家族に幸福を感じられないからではないでしょうか。
元妻のランディは既に再婚していて、完全に赤の他人となっていました。
暴言を吐いたことへの謝罪もリーの心の傷を癒やすものにはならなかったのです。
また、便利屋として孤独に生きるのが自身のスタイルとして合っていたのでしょう。
彼は無理に乗り越えることをせず、そっと心に締まって隠棲する道を選んだのです。
甥が二股をかける理由
甥のパトリックはジョーの遺言を無視して、元母のエリスに後見人の打診をしていました。
この行為は少なからずリーの心を傷つけましたし、ジョーからすれば裏切りに等しい行為です。
ここでは何故そんなことをしたのかを読み解きましょう。
リーが消極的だった
1番の理由は後見人に指名されたリーが消極的だったからです。
後見人はお互いの合意の上にこそ成り立つものであり、ここでも見解の不一致が見られます。
パトリックは決して自ら望んで元母のエリスに後見人を打診したわけではないのです。