武志と光子の間には2人にしかわからない秘密があるようでしたが、幼少期からの生活も挫折と絶望の繰り返しだったようです。
光子の唯一のよりどころは武志の存在だったのでしょう。
2人が今までの悲劇的な人生を耐えることができたのは、悲しい兄妹の愛があったからなのです。
生みの親に見離される悲劇
実の父親から性的虐待を受けていた光子。父の暴力におびえていた武志。
母親からも相手にされない2人の悲しい過去は、幼くして希望さえも失ってしまうほどの悲しい日々でした。
人格が形成されていく、大事な成長期を失った2人が精神を病んだとしてもおかしくないでしょう。
幼い兄妹が膝を寄せ合って、世間から逃れるように生きてきたことは容易に想像できます。
親の愛情を受けられなかったことから、それぞれが愛の渇望を満たす相手になったのでしょう。
思春期を迎え、兄妹愛が恋愛の対象に発展したのもわかるような気がします。
誰にも言えない秘密を共有する2人。光子の子千尋の父親は武志だったと推測できます。
武志もそれを知り2人だけの秘密として、愛する光子のためにもすべてを受け入れたのでしょう。
武志の目的は何だったのか
武志は、一年前に起きた田向一家殺人事件の犯人が光子であることを、最初から知っていたのではないでしょうか。
取材を申し出たのは、光子が犯人であることの証拠を知っている人間が、被害者の友人にいないか確認するためだったと思われます。
兄妹でありながら互いに心の置き場を相手に求め、妹である光子との間に子供ができてしまう悲しい兄妹愛。
2人の絆が太いだけに、武志が殺人を犯してしまう悲劇を起こしてしまったのです。
淳子を殺害した理由
武志が衝動的とも思える殺人を犯したのは、大学時代の光子の実態が明らかになったことが引き金になったようです。
衝動で狂気の殺人に走る武志
光子も衝動的に殺害事件を起こしていますが、武志にも同じような気性と思われます。
淳子に呼び出された時、武志は取材で初めて光子の名前を耳にしました。
淳子が話す光子の大学時代の話は、光子を愚弄する話し方も含まれていて武志の怒りを買ったようです。
ただ、それだけで殺害に及んだとは思えません。武志を触発したのは、淳子が光子の殺人をほのめかした時です。
光子の秘密を公にされたくない気持ちが昂って、武志の中で我慢の糸が切れたのでしょう。
大学時代の話の中で、光子の異性との交遊について聞いたことも武志に行動させた理由のひとつだと考えられます。
衝動的な武志の殺害行動の根底には、光子を大切に思う気持ちがあったのです。
光子の秘密を守るために
武志にとって、人生のすべては光子のためのものでした。
高校時代に実の父親を家出に追い込んだのも、光子の子である千尋の面倒を見ようとしたのも、すべて光子の幸せのためです。