始まりと終わりがしっかり繋がるように計算され尽くしているのが抜け目のない所です。

別れと死

2つ目の伏線として、クレオ達は別れと死をこのラストシーンに至る前に経験しています。

まずフェルミンとの別れ、アントニオとの別れ、そして後述するクレオの死産です。

ここに至るまでにソフィアとクレオは「喪失」を生涯の痛みとして味わいました。

その喪失があるからこそ、ラストシーンの輝かしいカタルシスがあるのではないでしょうか。

本作は他愛ない日常を繰り返していきながらも、その中で小さな破壊やショックが何度かあります。

そこで最後に「死産」という辛い試練を乗り越えることが必要だったのです。

海でクレオが泣いた真意

リフレッシュ・シアター - 南国の海、やすらぎミュージック

ラストに至る前の象徴的なシーンが海でクレオが大泣きするシーンです。

子供達を海から救った後、何故か堰を切ったように大泣きを始めます。

ここではその真意を考察していきましょう。

死産のトラウマ

産声のない天使たち

まず、クレオは赤ん坊を死産したトラウマを思い出してしまったのではないでしょうか。

本作においては海が子宮のメタファーとして象徴的に表現されています。

そのように見ていくと、海に子供達が浚われることはクレオにとって死産を意味するのです。

出産はよく潮の満ち引きに影響されるといいますが、本能的にそれがクレオの頭を過ぎったのでしょう。

彼女はここでまだ癒えてない心の傷を図らずも抉られた形になってしまいました。

だからこそ、死産した時同様に涙を流してしまったことが読み取れます。

罪悪感

2つ目に、クレオは死産した赤ん坊への罪悪感があったのではないでしょうか。

生まれてきてほしくなかったの

引用:ROMA/ローマ/配給会社:Netflix

そう、彼女は死産そのものに涙したのではなく、死産を望んだ自分を恥じて涙を流したのです。

何故死産を望んだのかというと、この妊娠自体が望まぬ妊娠だったからでしょう。

クレオは決して子供が欲しかったから、フェルミンと肉体関係を持ったわけではありません。

それにも関わらず妊娠させた挙句、責任も取ることなく逃げてしまったのです。

そんないやらしい形で生まれてくる子を彼女は望んだのかといえば、違います。

その辺りの食い違いがクレオを悩ませていたことを示しているのです。

水の持つ多様性

そして3つ目に、この涙は海や破水と並んで「」のメタファーでもあるのです。

本作は特にこの「水」がとても重要な要素として位置付けられています。

子供達を海に浚う水と死産の際の破水、そして大泣きの涙と全部「水」なのです。

このように水1つで様々な感情や情景を表現することが可能となります。

そして何よりも、本作における水の意味は「流動性」ではないでしょうか。

本作はともすれば地味な映画に見えますが、しかし物語は要所要所で動きます。

その動きを水の流動性によって表現し、物語の推進力としているのでしょう。

そのことを特に象徴的に描いているシーンとして描かれているのです。

フェルミンが逃げた理由

逃げる力 (PHP新書)

ソフィアを捨てて逃げたアントニオと並んで、フェルミンもクレオを捨てて逃げました。

何故彼は家庭を捨てて逃げる最低な男として描かれているのでしょうか?

学生デモへの参加

ポスト学生運動史: 法大黒ヘル編…1985〜1994

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