一見仲のよい夫婦に見えたゲルダとの生活も彼にとっては苦痛があったことでしょう。

もちろん心が女ですから、男としてのホルモン分泌系に何らかの異常があっても不思議ではありません。

二人がなかなか子供に恵まれなかったことにも影響した可能性があります。

同居するリリーとアイナー

アイナーの中でリリーが突然主導権を持ち始めたのは一見偶然の出来事のようにも見えます。

ゲルダはそれが自分の責任ではないかと悩みました。

しかしながら、アイナーの中でリリーは成長し続けており、表面化するのはある意味当然の結果だったのではないでしょうか。

心の中で男と女が同居することは肉体的なバランスにも大きな影響を及ぼしたことでしょう。

リリーとなったアイナーがヘンリクにキスされました。

しかもヘンリクは男としてのアイナーを意識してキスしたことにアイナー(リリー)は気づいて混乱します。

肉体がその強烈なストレスに耐えきれず、突然の鼻血となって表れたのです。

リリーへ

アイナーの中のリリーは次第にその存在感を強め、ついにはリリーがアイナーの肉体を支配するようになりました。

リリーはゲルダに対してアイナーを他人のことのように話す姿勢を示し始めます。

こうなればリリーにとって男であるアイナーの肉体はとても醜悪で受け入れがたいものになってくるのは当然です。

ヴァルネクロス教授によって性転換手術の道があることを知った彼女は一筋の光明を見いだしたことでしょう。

リリーは完全な女になることに命をかける決意をします。

彼女が手術に向かう際ゲルダの同行を拒んだのは、ミス・ヴェイナーとして手術に臨みたかったからではないでしょうか。

ミス・ヴェイナーに妻が同行していては不自然だったのです。

画家としてのアイナーとゲルダ

paint

アイナーとゲルダは画家夫婦でした。ともにプロとしての画家を目指していたのです。

皮肉なことにゲルダが認めたくないアイナーの中のリリーをモチーフにしたゲルダの絵が成功を収めることになります。

一方でリリーが顕在化したアイナーは全く絵が描けなくなってしまうのです。

画家としての二人を考察してみましょう。

リリーの絵が売れたわけ

painting

当初ゲルダの絵はその才能が評価されつつも全く売れませんでした。画商にはモチーフの対象が間違っていると指摘を受けます。

絵画は現実をそのまま綺麗に描いても売れるものにはなりません。それは習作にはなり得ても作品にはならないのです。

画家は描く対象から何らかの啓示を受ける必要があります。

その啓示を絵という形にすることで観るものを感動させるのです。

キャンバスに写し取るのは対象の写実ではなく、ある意味通常ではない精神性である必要があります。

ゲルダが描いたリリーには人の心を動かす何物かが存在したのです。

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