その場限りの身体的苦痛ではなく、一生心から消えない精神的苦痛を与える事こそが博美なりの仕返しだったのです。
曾根崎心中との関係性
「曾根崎心中」とは醤油商「平野屋」の徳兵衛と色茶屋「天満屋」のお初の2人の恋人同士のお話です。
映画の中でもポスター等で何度か登場するシーンがありました。
実はこの物語は浅井博美の経験とリンクする点がいくつもあるのです。
曾根崎心中と博美の共通点
- 徳兵衛は友人の九平次にお金を貸すものの、裏切られて詐欺師扱いをされる⇒忠雄の元妻、浅井厚子が浮気の挙句男に貢ぐために忠雄の全財産を使い借金をつくる
- その影響で徳兵衛は5人組から袋叩きにされる⇒忠雄の家に借金取りが毎日のように来る
- 真夜中に露天神の森へ向かう徳兵衛とお初⇒夜逃げする忠雄と博美
博美が幼い頃に経験した辛い出来事が、殆どが重なっております。
この舞台は博美の人生を描いているといっても過言ではないでしょう。
唯一共通しない場面「心中」
曾根崎心中では2人は行き場もなく最終的に愛し合うあまり徳兵衛がお初を殺し、自分も死にます。つまり心中をします。
この点が唯一共通しておりません。博美は今も生きているからです。
これは博美の父の愛情の壮大さが関係しているのです。
博美にだけには幸せになってほしい。
そんな願いがあるからこそ、忠雄は自分が他人として生きていく事にも躊躇せず、2人の人間を殺し最後には自分も死ぬ覚悟があったのです。
全ては娘が幸せに生きていく為なのです。
最初は博美も、自分だけが生きて楽しい生活を送る事に罪悪感を覚えたはずでしょう。
それならば私も一緒に死ぬ!そんな風に博美が言わなかったのは、それを最愛の父が望んでいない事をよく理解していたからです。
最愛の娘の為に死を選ぶ忠雄、最愛の父の為に生き続ける博美。
そう思うと曾根崎心中の何倍も切ない話なのです。
でも忠雄は天国からならば逃げも隠れもせず娘を見守る事が出来ますから、きっと幸せになったはずです。
これからは携帯電話を使わなくとも、周りの目を気にせず橋での再会を果たす事が出来るでしょう。
加賀恭一郎の自分探し
この事件には加賀恭一郎自身が大きく関わっていました。
無事解決した後は長年居続けた日本橋署を離れる事になりますが、これは加賀恭一郎の自分探しに幕を閉じたからなのです。
恭一郎の家族への誤解が解けたこと
母は幼い頃に手紙を残して家を出て行ってしまい他界。
父は家に殆どいなくて母の最期を看取る事も無く他界。
でも、今回の浅井博美の事件を通じて色々な思い込みや誤解が解き明かされました。