それほど映像と音楽が鮮烈な作品のなのです。
それにはフランシス・レイの音楽が大きく寄与していることが一番。
一方でアンヌの旦那さんが歌っていたブラジルの新しい音楽の動きを讃えるサンバ、ボサノバも重要な働きをしています。
旦那さんを演じたピエール・バルー(この映画の後に本当にアヌーク・エーメと結婚する)は、作品中の例のスキャットも歌っているように、本来は歌手です。
そしてクロード・ルルーシュの親友にしてフランシス・レイの友人でした。
彼がブラジルの新しい音楽の旗手たちを讃え、劇中で歌う「男と女のサンバ」。
ボサノバの創始者の一人と言われるV・ジ・モライスとB・パウエルが作詞・作曲した「サンバ・サラヴァ」をバルーがフランス語に訳して自ら歌っているものです。
当時のブラジル音楽の新しい潮流「ボサノバ」を紹介し、作品のオシャレな雰囲気を加速させた効果的な音楽の使い方でした。
結果論かも知れませんが、バルーとルルーシュの功績といっていいでしょう。
一方、作品中に歌われる挿入歌の歌詞にも重要な意味があります。
特にラストに向かってのベッドインの時カットバックされるアンヌと亡夫のシーン、それとラストシークエンスに流れる歌。
それらの歌詞は意味深長で、十分味わう必要があるでしょう。
結婚指輪とラストシーン
目立つアンヌの左手薬指
主人公の二人は共に伴侶を悲劇的な失い方をしています。
その二人が出会い愛し合うようになっても、アンヌの左手の薬指には結婚指輪がキチンとはまっています。
それを意識的に見せるのが終盤のベッドインのシーンです。
アンヌが亡夫を忘れていないという映像表現をカットバックのシーンと現在のシーンとで二重に説明しています。
こうして夫を忘れられないアンヌは、気まずい思いの中、電車でパリへと戻るのです。
しかし彼女は途中の乗換駅で先回りしたジャン=ルイを見つけ、二人はしっかりと抱き合うのでした。
カメラは抱き合う二人の周りを2周ほど回り、ラストカットでは二人の周りは削り取られ白くなりストップモーションとなって映画は終わります。
ではラストシーンはなぜセピアのままなのでしょうか。
それはラストカットで二人の周りが白く切り取られたのと分かち難いと感じます。
少し前まで夫を忘れられないでいたアンヌが短い間にジャン=ルイのことだけを考えるようになるでしょうか。
無理でしょう。
セピアカラーはそのモノクロでもないカラーでもない曖昧な気分とカラーになる一歩手前の気分を表します。
そして白くなった二人の周囲は取り敢えず二人の世界を築けたことを意味すると読めるのです。
タイトル通りの「一人の男と一人の女」を強調しています。
映画の前半、モノクロのシーンで、日曜日はたぶん仕事はない、土曜に電話下さい、とアンヌがジャン=ルイに電話番号を教え時の曖昧さ。
その大人の愛の曖昧さはラストカット寸前まで続いていたのでしょう。
大人の愛の曖昧さ
お互い背負ったものが大きくなる大人の恋愛の世界は曖昧なものです。
パリ、ドーヴィル、モンテカルロというロケーション。
そして色彩と詩情豊かに流れるような映像、フランス語のセリフ回し、甘く切ないフランシス・レイの音楽とサンバ、ボサノバの新鮮さ。
これらが渾然一体となり独特のムードを持つ作品に仕上がったのが「男と女」なのです。