エグジーはハリーがいなくなっても、一人前の男として立つことができるようになっていたのでした。
ヴァレンタインの陰謀
ハリーはヴァレンタインの策略で教会におびきだされ、そこにいた人々を惨殺しました。
はじめて視聴したときは、「ハリーは正義の味方なのだから、この虐殺にも正しい意味があるはず」と思っていたのですが……。
実際には、ハリーはヴァレンタインの罠にはまり、操られて自分の意思で殺戮をしたのでした。
さすがマシュー・ヴォーン監督です。観客の予想をあざやかに裏切りました。正義が悪に負けてしまったのです。
なぜこのような筋書きになったのでしょうか? 監督のインタビューから答えを探ってみましょう。
監督が観せたかったもの
マシュー・ヴォーン監督は、近年のスパイ映画はシリアスになりすぎていると感じていました。
往年のスパイ映画のファンだった監督は、過去のスパイ映画に対するリスペクトを持っていました。
そこからいかに新しいスパイ映画を作れるか、ということに挑戦したのです。
そこで、『キングスマン』は過去のスパイ映画らしい軽妙さと楽しさを持ちながら、現代的な問題を扱う作品となりました。
監督は現代の私たちが観て楽しいと思えるものを作ろうとしています。
そして自分の問題だと思えるテーマとして、「地球温暖化」や「人口過密問題」を扱いました。
監督のやりたいこと
マシュー・ヴォーン監督は、観客に新しい体験をさせたいという思いで映画を作っています。
いままでアクション映画に縁のなかったコリン・ファースを主人公にしたのもその狙いがあったからです。
コリン・ファースがアクションをするという絵面が驚きと面白さをもたらすだろうと考えました。
新人俳優であるタロン・エガートンを大抜擢したのも同じです。
ダンサーであるソフィア・ブテラを義足の凄腕スパイであるガゼル役に起用したのも、新鮮さを観客にもたらすためでした。
すべては観客に驚きをもたらすのが監督の狙いでした。
監督の狙いどおり、コリン・ファース演じる完璧スパイのハリー・ハートの失敗は、観客の度肝を抜く筋書きとなっています。
人類の滅亡をとめるには?
頼りのハリーが倒れ、人類の滅亡はカウントダウンに入りました。ヴァレンタインの人類凶暴化計画は、どうすれば止められるのでしょうか。
その方法は、とてもシンプルなものです。
ヴァレンタインが妙に人間臭い責任感と真面目さを持っていたおかげで、人類滅亡は防げたのでした。
サミュエル・L・ジャクソン演じるヴァレンタインは突き抜けた異常者でしたが、憎めない悪役でしたね。
さて、人類凶暴化計画を、もう一度確認してみましょう。
人類を凶暴化させるSIMカード
まず、ヴァレンタインはSIMカードを大量生産しました。
そのSIMカードは、ひとたび神経信号を送ると、脳の攻撃本能を活性化させ抑制本能をとめることができるものでした。
これを全世界に無料で配り、SIMカードが世界中にまんべんなく行き渡るようにしました。
あとは、信号を送って人々を凶暴化し、勝手に殺し合わせるだけでいいのです。
ヴァレンタインは血が苦手で、血を見ると吐いてしまうので、自分で手を汚さずに済む方法を考えだしたのでしょう。
凶暴化を防ぐ専用チップ
SIMカードの信号に影響を受けないためには、専用のチップを耳の後ろに埋め込みます。
このチップはヴァレンタインが選んだ一流の人間に埋め込まれました。
ヴァレンタインの思想に賛同しない著名人は、ティルデ王女のように基地に幽閉されています。凶暴化した人々から守るためです。
チップを埋め込んだ者は自由に行動でき、安全な場所で人口が減るのを鑑賞します。
こんな荒唐無稽な計画を大真面目に地球と人類のためと思ってやっているのですから、ヴァレンタインは救いがたい異常者です。
ですが、天才でもあることが伝わってきます。
阻止する唯一の方法
ヴァレンタインは人類を凶暴化するマシーンのセキュリティに、生体認証システムを選びました。
その理由が「悪い人間が扱ったらまずい」というものだったのですから、皮肉がきいています。
生体認証システムは、「生きている本人」だけがセキュリティを突破できます。
つまり、ヴァレンタインが死ねば、マシーンは起動できなくなるのです!
ヴァレンタインは、自分は死ぬはずがないと思っていたのでしょうね。
ですが残念ながら、映画らしく悪役は正義のヒーローに倒されてしまいました。
『キングスマン』は最高のスパイ映画
映画本来の面白さを再確認させ、新たなスパイ映画の流れを作り上げたマシュー・ヴォーン監督の『キングスマン』。
魅力的な紳士スパイヒーロー、目を見はるアクション、気持ちのよいスピード感……。
『キングスマン』はスパイ映画の新たな傑作といえるでしょう!
ホワイトハウス、地球温暖化の提唱者、差別主義者、王室など全方位に向けてブラックな皮肉を連発している本作でしたが、さすがイギリス人が作るものは格がちがいますね。
『キングスマン』を観終わったあと、「威風堂々」の曲を聴くと思わず笑ってしまうようになったら、あなたはきっと『キングスマン』の仲間です。
シリーズ化するほど大人気の『キングスマン』とマシュー・ヴォーン監督のこれからの作品に期待しましょう!