サントラでも堪能できるビル・コンティによる名曲がなければ『ロッキー』という映画自体が成り立たなかったとさえいえます。
ロッキーの魂を作ったビル・コンティの名曲
ロッキーのテーマ「Gonna Fly Now」はジョン・ウィリアムズの『スターウォーズ』のテーマと並んで世界の映画史における最高のスコアだといえるでしょう。
映画では主にジョギング・シーンで流れますが、この曲ほど人のやる気や情熱に火をつけるものが他にあるでしょうか。
私などは寝たきり老人になっても、この曲が流れればムクっと半身を起こすのではないかと思えるほどです。
そしてもう1つ、忘れてはならないのがラストシーンで流れる「Final Bell」です。これは本当に感動を誘います。
人生すべての苦労や努力や愛がすべて1つに結晶化されたとき。
まさにそのときに溢れ出す人間の感情をここまでみごとにシンプルに表現した曲が他にあるでしょうか。
映画『ロッキー』はビル・コンティという作曲家抜きにしては絶対に語れません。
ロッキーという人物のあまりある魅力
映画の最大の牽引力はやはりタイトル通り、ロッキーその人でしょう。
ロッキー・バルボアは30歳の落ちぶれたボクサー。借金の取立てにも手を染めた彼は一見すると社会のクズに違いありません。
しかし、同時に彼は社会のどん底にあっても、そこに染まろうとしない気高さを持っています。
何よりエイドリアンを好きになる点に、ロッキーの最大の魅力があるでしょう。
エイドリアンは極めてシャイな女性で、人間関係を避けているようにさえ思われます。
そのためロッキーの思いには、彼女に何とか普通の幸せを味合わせてあげたいという慈愛も感じられます。
相手を殴り倒すことを仕事とするボクサーがこういった純愛を持つことで、それはなお輝きを放ちます。
ロッキーはユーモラスな男でもあります。自分のリング・ネームに「イタリアの種馬」とつけた所にもそれが現れています。
彼はいつもひょうひょうとしていて、よく気の効いたジョークを口にします。
エイドリアンの硬く閉ざされた心を開いたカギも、そのユーモラスな親しみやすさによるものでした。
あまり語られませんが、ロッキーはとてもチャーミングな男なのです。
ロッキーが現世界王者・アポロと真剣に戦うことを決めた理由
ある幸運からロッキーは現世界王者のアポロ・クリードと世界タイトル・マッチを戦うことになります。
なぜ弱小ボクサーの彼がそんな無謀な挑戦をしたのでしょう。
浮かれたロッキーに火をつけたミッキーの訪問
ロッキーは宝くじに当たったような気分でアポロの挑戦を受けました。最初はファイトマネーと人気者になるのが目当てだったのです。
しかしそのニュースを知ったトレーナーのミッキーがロッキーのアパートを訪ねることで、すべてが変わります。
ミッキーは彼のセコンドを務めたいと申し出ます。しかし彼がずっと落ちぶれたロッキーを見放していたため、ロッキーは彼を部屋から追い出します。
それは当然の結末といえるでしょう。しかしロッキーはすぐにミッキーを追いかけ、2人は再びタッグを組むことになります。
ロッキーは、おそらくほとんど何の実績もなくキャリアを終えようとしている老いたミッキーを思いやったはずです。
自分がアポロ戦で少しでも戦えれば、彼の人生も少しは報われるかもしれない。そう思ったのかも知れません。
ロッキーのこの無謀な挑戦には、トレーナー・ミッキーとの師弟愛が深く関わっています。
ロッキーの戦いの舞台はリングよりも大きい場所だった
ロッキーのアポロへの挑戦は、真剣なものでありながら結果を度外視したものでもあります。
ロッキーは世界チャンピオンとの実力差をはっきり認識しながら、必死のトレーニングに励むのです。
では、どこにモチベーションがあったのでしょう。
「もし最終15ラウンドまでリングの上に立っていられたら、自分がただのゴロツキではないことが証明できる」
引用:ロッキー/配給会社:ユナイテッド・アーティスツ
試合前、ロッキーがエイドリアンに語ったこの言葉がその鍵になります。
つまり彼はアポロに勝つためではなく、人生というより大きな舞台での勝利を目指していたといえます。
何か1つのことを徹底的に最後までやり抜いた。
そう胸を張って言えるようになるためロッキーは世界チャンピオンに真剣に勝負を挑んだといえます。