だからこそ、リング上のロッキーの勇士は世界中のさまざまな人の心を動かしたのでしょう。
映画の名場面
あなたにとってロッキーの名場面は何でしょう。
ロッキーとエイドリアンがアイスリンクで初デートするシーン? ロッキーが冷凍庫で肉をパンチするシーン? 階段を上ってジャンプするシーン?
ロッキーを輝かせたフィラデルフィアの荒廃
私にとっての最高の名場面は、ほとんどの人にとってはあまり観たくないシーンでしょう。
ロッキーが顔見知りの少女を不良仲間から連れ出すシーンです。彼は少女に不良とつきあうといかに人生が狂ってゆくかということを言って聞かせます。
しかし別れ際、少女は「 Hey Rocky! Screw you, creepo!(ロッキー、くそったれ)」と言い放ちます。
恩を仇で返すとはまさにことのことです。
鑑賞者の多くも不快に感じたでしょう。しかし、その後、夜の闇に消えるロッキーの後ろ姿はこの映画の重要なトーンを作ったといえます。
そこにはフィラデルフィアの街のどうしょうもない荒廃ぶりが映し出されていました。
こういうトーンだからこそ、映画全般でロッキーの情熱や愛がより輝いて見えたはずです。
多くのシーンで荒んだ街の重苦しさが映っていますが、それは彼の気高さを引き立てるためには不可欠な要素だったといえます。
2つのラストシーンを比較検証
映画『ロッキー』の有名なラストシーンは、最初の撮影カットが3ヵ月後のリテイクに差し替えられる形になりました。
いったいどちらのラストが良かったのでしょう。メインテーマも絡めて解説します。
不朽の名作につながった愛と夢の融合
『ロッキー』のメインテーマは極めてシンプルかつ普遍的なものです。ひと言で表せば、それは夢と愛の融合になります。
ロッキーは世界チャンピオン相手に最後まで戦いぬき、そして最愛の人とその喜びを一緒に分かち合いました。
ありきたりな感動場面のようでいて、それは一種の奇跡だともいえます。
実際、ほとんどの人は夢と愛のどちかを犠牲にして、一方向にしか進むことが出来ません。その意味でロッキーのテーマは理想が高すぎるともいえます。
が、その不可能性・行いがたさによってロッキーのテーマは時代を超えて輝きを放っているともいえます。
またボクシングというスポーツの素晴らしさを抜きにして、この映画は語れません。
死ぬかもしれない命がけの戦いだからこそ、どんなに殴られても立ち上がり続けるロッキーの姿は大きな感動を誘ったといえるでしょう。
リテイクされて本当に良かったラストシーン
ラストシーンの最初のテイクは、ロッキーとエイドリアンが控え室で祝福しあい、会場の裏口からそっと2人で帰るというものでした。
これは当時のリアリズムを重視したアメリカン・ニューシネマの影響によるものだということです。
ロッキーにとって大切なのは最後までやり抜き、そして愛する人と称えあうことでした。
そのためこのラストシーンでも、このテーマの本質は失われなかったでしょう。
しかしリテイクされた誰もが知るラストシーンに較べれば、やはり相当に見劣りがします。
ロッキーとエイドリアンが大熱狂のリング上で抱き合うことで、その愛はよりドラマチックに大勢の人に届くことになります。
極めてシャイだったエイドリアンが大勢をかきわけてリングまでやって来たことも感動を誘います。
また、ロッキーは勝利者がコールされる前から「エイドリアン!」と叫んでいました。
そしてアポロが勝ち名乗りを受けたその同じリングの端っこで2人は抱き合います。
そこで鑑賞者は、2人が戦っていた舞台がリングではなかったのだと理解します。
つまり戦いのリングで抱き合うことによって、2人の愛が逆に浮き上がることになったのです。
そして何より、これがラストシーンでなければビル・コンティの名曲「Final Bell」も生み出されてなかったかもしれません。
今思えばリテイクされて本当に良かったと心の底から思えます。
『ロッキー』に限らず、ほとんどの傑作映画において、ラストシーンの選択に間違いはないといえるでしょう。