理解してくれる人が弟の側にいることは、兄剛志にとってとても嬉しいことだったでしょう。
辛い思いをしてきた弟が周囲を笑わせる強い人間になったことに、感謝にもにた嬉しさがこみ上げたのかもしれません。
全てを繫いだ手紙
本作品のタイトルとなっている「手紙」は劇中でどのように捉えられているのでしょう。
般若心経である
手紙は彼にとっての般若心経だ
引用:手紙/配給会社:ギャガ
被害者遺族の緒方は、剛志からの手紙を綴ることで罪を滅ぼす般若心経だと例えています。
受け取った方が辛い思いをしてきた剛志からの手紙は、ともすれば自分が楽になるための剛志の手段だったのかもしれません。
そのことに緒方は気付いていたのでしょう。
剛志が手紙を書くのをやめたことで、直貴も緒方も解放されたのです。
剛志にとっては救いだった
獄中の剛志にとって緒方への手紙は、自分の罪悪感を消していくものでした。
返事のない手紙を毎月書き綴っています。
剛志はその手紙が緒方にとってどれだけ辛いものか見えていなかったのでしょう。
また弟への手紙は、大切な家族と自分の繋がりを感じるものだったはずです。
結果弟を苦しめるものになっていたのは皮肉なことです。
由美子からの手紙は大切なメッセージ
由美子は直貴と偽り手紙を書き続けていますが、彼女はこの手紙で剛志を支えていたのでしょう。
かつて自分を救った手紙の大切さを彼女は知っていたのです。
獄中から送られる手紙と、彼女が送る手紙は対照的になっており、まさに影と光のように描かれています。
由美子が平野社長に書いた手紙も直貴を救っています。
剛志の手紙の存在と由美子の手紙の存在は、手紙がいかに人の心を動かすものなのかを考えさせられます。
手紙がつないだ心
お互い長かったな
引用:手紙/配給会社:ギャガ
劇中で緒方は剛志の最後の手紙を見せた後、上記のセリフを投げかけます。
この手紙がなかったら緒方は直貴のことも憎み続けていたことでしょう。
被害者遺族と加害者家族をつないだものが、剛志の最後だったのです。
剛志からの手紙が届くことで、お互い辛い思いをしてきたという共通の痛みを分かちあうことが出来たのでしょう。
答えの見つからない差別をえがいた名作
『手紙』を観ると犯罪者家族への差別について深く考えさせられます。
差別に善悪をつけることが出来るのでしょうか。
手紙というツールを主軸とし、罪を犯すとはどういうものなのかをリアルに描がいた本作は名作と呼べる作品です。
観返すごとに、考察が深まっていくのを感じます。