映画にあった現地での突然のダメだしは、サスペンス流の演出だったのです。
救出に向かったのは技術屋と頭脳派の2人のコンビだった
映画でトニー・メンデスは単独でテヘランに向かいますが、実際は2人でコンビを組んでいました。
メンデスがフリオと愛称をつけた相棒がいたのです。
メンデスはCIAの技術担当者で偽装や変装のプロ。パスポートを偽造するような小細工や特殊メイクなどが専門でした。
一方のフリオは分析や言語担当の頭脳派。映画ではメンデスが技術屋らしい能力を発揮するシーンがなく、フリオの存在も消されていました。
これはおそらくメンデスをより英雄化したかったからでしょう。
何かを偽造したり、賢明なパートナーに助けられたりするのは、歴史的な救出作戦のリーダーにはふさわしくないと思ったのかもしれません。
また、メンデスを演じるベン・アフレックは監督でもあります。
北野映画などもそうですが、監督が主演を兼ねるとどうも格好いい主役にしてしまいがちです。この映画もまたそのいい一例でしょう。
映画と実話の大きな相違点
いくらドキュメンタリー映画でも、これはちょっと見過ごせないというような大きな違いもあります。2点見てゆきましょう。
イランをおとしめた空港カーチェイス
おそらく史実を知らない人でも気づくはずのあからさまな演出が1つあります。
それはクライマックスの空港でのカーチェイスです。もちろんあれほどドラマチックなことが現実に起こるはずがありません。
それでも多くの人は「映画を盛り上げるためにはしょうがない」と目をつぶったことでしょう。
しかしイラン人にとっては不愉快極まることだったはずです。空港シーンには、アメリカにだまされたイランを辱める意図が感じられます。
そのためイランは『アルゴ』の後、名誉挽回のために同じ事件を描いた映画を作ったそうです。
カナダこそが人質解放の最大の功労者
『アルゴ』において実話との最大の相違点は間違いなくカナダの存在にあります。
映画ではカナダがCIAの良き協力者のようにしか描かれていませんでした。これは明らかに過小評価です。
実際この事件は一般的に「カナダの策謀」と呼ばれるほどカナダが中心になって行われたもの。
当時のカナダのテイラー大使も『アルゴ』を観た後に「CIAはカナダのパートナーであり、メンデスは作戦の一部に過ぎなかった」と言っています。
6人のアメリカ人大使館員がイランから脱出できた第一の要因は、アルゴ計画ではなくカナダの協力体制にあったのです。
カナダは自らの大使館職員が危険にさらされるリスクを負いながら、87日間もアメリカ人をかばいつづけました。
一方でテイラー大使は、史実に反していると訴えながらも映画をとても高く評価しています。
カナダはどんなときもアメリカの心優しきパートナーなのです。
緊迫感あふれるクライマックス
ドキュメンタリー映画は、最初から結末が分かっているという大きな難点があります。
しかし『アルゴ』は鑑賞者を最後までハラハラさせるサスペンスフルな映画になっていました。その理由を考えます。