主人公であるド・ウィンター 夫人を苦しめる存在として描かれているのがレベッカです。
原作の方が恐怖を煽る女性像に描かれているのです。
小説の中の彼女には、マキシムを愛する心は感じ取れないという人が多いようです。
屋敷を燃やしたのはレベッカという設定
小説ではラストに屋敷を燃やすのはダンヴァース夫人ではありません。
ダンヴァース夫人は屋敷を去り、レベッカの怨念が屋敷を燃やすと解釈できる構成となっています。
レベッカという女性は多くの男性の愛を求めつつ、夫であるマキシムの心も欲しがる女性だったのではないでしょうか。
死者に支配される恐怖
本作品はヒッチコックの独特の恐怖演出が、じわじわと襲ってくる作品です。
レベッカの姿なき存在感
レベッカ自身は不慮の事故による死、という出だしで劇中には全く姿を見せません。
ダンヴァース夫人の話すレベッカ像が、まるで彼女が存在するかのような恐怖感をド・ウィンター 夫人に与えるのです。
精神的に追い詰められていくド・ウィンター 夫人に観客は共感し、彼女の恐怖を共に体験することになります。
レベッカの悪女性を他者が語る
レベッカの姿は様々な人物によって語られていきます。
その中でもマキシムがド・ウィンター 夫人に話したレベッカという女性の姿は凄いものがあります。
良き妻を演じてあげる
世間を欺いてやりましょう
引用:レベッカ/配給会社:ユナイテッド・アーティスツ
悪魔と過ごしていたと語るマキシムでしたが、まるでレベッカは魔女でもあったかのように語られていきます。
死後ばかりでなく、レベッカは生前もマキシムに苦痛を与え続けていたことになります。
マキシムが告白するレベッカ像は、それまでの彼女の理想の姿を崩壊させていくシーンです。
彼女の悪女性が底知れぬ恐怖を感じさせます。
ド・ウィンター 夫人の演技を引く出すために
マキシム役のローレンス・オリヴィエは、ヒロイン役が恋人ヴィヴィアン・リーでなかったことに不満を覚えていたそうです。
その為か撮影中ヒロイン役のジョーン・フォンティンに冷たく接していました。
それを知ったヒッチコックは、スタッフ全員にジョーン・フォンティンに辛くあたるよう指示したという話が残っています。
ド・ウィンター 夫人として屋敷で打ち解け辛い怯えた雰囲気を引き出したのです。
ヒッチコックの恐るべき完成度に対する執念ではないでしょうか。
じわじわとくる恐怖が魅力
レベッカは約60年前に、今現在のクライム・サスペンスの完成形のひとつを提示した金字塔です。
劇中 ダンヴァース夫人から受ける恐怖感がじりじりと迫ってくる感覚は、他の追随を許さない迫力があります。
ラストまで観る者の心を離さない巧みな手法です。
ヒッチコック映画の傑作と呼ばれる『レベッカ』は、何度観ても心を奪られてしまう名作ではないでしょうか。