それぞれが主役をすることができるほどの俳優陣で、特に松重豊・薬師丸ひろ子の話「夫婦」で盛大に泣いた方は多かったそうです。
記憶を無くしていく妻と、その妻に寄り添う看護師の夫の話でした。
妻から夫へ送る手紙の内容はもちろんですが、二人の迫真の演技と泣いている姿が圧巻です。
嘘を上手につくことができない松重豊と、自分の将来の姿を想像してしまう薬師丸ひろ子の夫婦の愛の強さを見せられます。
この話だけで4回以上泣いてしまったという方もいるほどのストーリーと演技を見ることができます。
新谷が埋めていく数の感情
友達もおらずコーヒーを入れる日々
父親は小さい時に無くしており、母親は幽霊になってしまった数は、大人しくてかわいらしいが、どこか影のある女性に成長していました。
従兄の流とともにフニクリフニクラを経営していましたが、買い出し以外で外に出ることはなく、店でコーヒーを淹れる日々だったのです。
そんな数の前に現れたのが、近所の大学に通う新谷で、店の都市伝説を聞きつけてフニクリフニクラへとやってきました。
飼い猫のきなこが死んでしまったので、会いたいと思いやってきたのでしょう。
ルールに基づいて、店に来たことのないきなこには会えないと分かってからも店に頻繁にやってくるようになります。
芸術系の大学に通う新谷にとって、数の独特な雰囲気やコーヒーでタイムスリップさせる行為は芸術の域に達していたのかもしれません。
次第に距離を詰めていき、数のたった一人の友人になったのです。
数に初めて芽生える恋愛という感情
新谷の趣味に付き合い、数はあらゆる場所へ友人として連れて行ってもらいます。
友人になるという発言の前から、新谷は数のことを女性として意識していましたが、数自身も少しずつ新谷に惹かれていきます。
友達自体がいない数のことなので、友達としての感情と恋愛感情が混ざってしまっていたかもしれません。
年越しのタイミングでキスをされましたが、素直にキスを受け入れそのまま二人はいつの間にか付き合いだしました。
数にとっては母親のことでいつも頭がいっぱいだったのでしょうが、その頭の中に少しずつ新谷の存在が追加されていったのです。
過去に固執する数と謎の女の存在
数が母親の影でずっと自分を責めて、苦しんでいたことは、幽霊となってしまった母親が毎日目の前にいるからでしょう。
年をとらず、話すこともありませんが、霊感がなくともはっきりと見え、コーヒーを飲み、トイレに行く姿が変に人間らしさを残しています。
触ると水の中にいるような感覚に陥り、息ができなくなってしまいますが、基本的には地縛霊のようにそこにずっといるのです。
幽霊となり、言葉も感情も表情も失った母親を見て、毎日数は自問自答をくりかえしたことでしょう。