現実がこうあれば良いのにという想いからあらゆることに目を瞑り最高の展開へと進みます。
しかしこの空想ミュージカルは現実逃避でしかなく、悲惨な現実へと戻されていくのです。
そしてセルマは現状を打開し、もがく様なことは一切しませんでした。
諦めるように目の前のことを受け入れ、どんどんと堕ちていくのです。
彼女が必死になれたのは息子の目のことだけだったのです。
サウンド・オブ・ミュージックに込められた想いとは
この作品を通して、サウンド・オブ・ミュージックの曲をセルマが口ずさんでいます。
舞台でサウンド・オブ・ミュージックをするから記憶に新しかったのかもしれません。その中でも、何度か登場した曲が2曲ありました。
- My Favorite Things
- So Long, Farewell
多くの有名な楽曲が生まれたミュージカルの中でこの2曲が選ばれ、使用されていたのです。
このことはサウンド・オブ・ミュージックの中でこれらの曲が使用されるシーンにも関係しているのかもしれません。
『My Favorite Things』は、主役・マリアが嫌なことや辛いことがあった時に歌う曲です。
辛い時には自分の好きなものを思い出して元気を出すという内容の歌で、子ども達が雷に怯えている時に歌って聞かせています。
セルマにとってのFavorite Thingsは空想の中のミュージカルそのものだったのかもしれません。
『So Long, Farewell』は、マリアが家庭教師をしている家の子ども達がパーティを早く切り上げてその場を去っていく時に歌っています。
7人の子ども達が順番に歌っていき、まだこの場にいたいけど今日はもう部屋に戻って眠らないといけないという内容です。
名残惜しくもその場を後にしなければならない切なさを明るく歌っていました。
目が見えなくなって、演じることも踊ることも出来なくなるけれど、息子を想って気丈に生きていく母の姿と当てはまります。
このようにサウンド・オブ・ミュージックの曲でリンクするセルマの姿を映しているのではないでしょうか。
秘密を守ることで暗闇を広げてしまった
セルマが本当に大切にしていたものは『息子の目』でした。
息子そのものももちろん大切に想っていたのですが、自分がしてきた辛い想いを息子にもさせたくないという気持ちが強かったのです。
ジーンの目を守る為ならどんな嘘だってつきました。自分の身などは二の次だったのです。
自分の目がもうすぐ失明することやジーンにも遺伝するという秘密をビルに話してから、ビルの秘密も自分のもののように隠し通しました。
そうすることで、自身の持つ秘密もビルの秘密も話してはいけないと感じたのか嘘に嘘を塗り重ねていくことしかできませんでした。
セルマは自分で自分の首を絞め、暗闇の世界へとどんどん入ってしまっていったのです。
セルマが死に追いやられた本当の理由とは
秘密を打ち明けなかったこと
前述した通り、セルマは秘密をビル以外に打ち明けることをしませんでした。
事件を起こし、自分が死刑囚となってから初めて本当の理由を親しい人たちに知られます。