社会が何も彼女に手を差し伸べようともしなかったのが、アイリーンを社会的罪人に作り上げてしまった要因でしょう。
幼少期からの彼女の人生を見てみると、正常な大人になるとは思えません。
もちろん彼女自身の問題ではあるのですが、それだけで片づけられるような簡単なものではないのではないでしょうか。
「してはいけないこと」をして良いと思っていた
例えば社会では人を殺してはいけないというのは常識ですがアイリーンの場合は「自分のためならしょうがない」という考えが根本にありました。
むしろ、アイリーンの生きてきた世界では外部のルールなど通用しないという考えがあったのです。
「これをやったらどうなるか」「こんなことを言ったらどう思うか」など、先の予測を立てることが彼女にはできませんでした。
自分以外の人のことを考えるという発想自体が皆無だったのです。
その点がさらに彼女をモンスターに仕上げてしまったのではないでしょうか。
ネタバレ
救われない人生について描いた作品
タイトルだけではホラーやサスペンスだろうと予想される方もいますが、結論からいうと、単なるホラーやサスペンスではありません。
殺人鬼となった者の救われない人生や社会の非情さなどを描いた作品であり、決して怖いというものではなく広い意味で考えさせられる作品です。
だからこそ、実際の殺人犯であるアイリーン・ウォーノスが取り上げられています。
酷い人間関係や環境だけでなく、仲間からの裏切りや何気ない社会からの疎外など…。
いろいろな面から救われない人生を表現しているのです。
モンスターという題名
気になるこのタイトルですが、一般的には【モンスター】は怪物や化け物のことで、人間ではない恐ろしい生物のことを指します。
しかし本作に出てくる登場人物は皆人間です。
タイトルの真意は、連続殺人鬼アイリーンを象徴しているのでしょう。
常に異常であり普通の人間ならばやらないような言動をする者のことを意味しているのです。
そしてこれは、実は主人公だけでなく私たち人間は全員モンスターになり得るという意味を含んでいます。
これが【モンスター】という映画から読み取れるメッセージです。
真の意味でのモンスターとは何を指すのか
私たち人間は、誰でも環境や付き合う人によってモンスターになり得る、と解説してきました。
ここではその理由を、作品の中でモンスターとして現わされている人物と共にお伝えします。
まさに社会の縮図を描いているかのように、身近で誰でもなり得るということがお分かりいただけるかと思います。
アイリーン
まず、主人公のアイリーンです。こちらはいうまでもなく殺人を犯したモンスターとして描かれています。
彼女のセリフで印象的なのは下記の言葉です。
「地獄へ落ちるがいい」
引用元:モンスター/配給会社:ニューマーケット・フィルムズ
他者の不幸を望んでいるこの発言には、アイリーンが感じてきた恨みが込められているようです。
彼女の生涯を幼少期から見ていくと、育った環境が彼女を捻じ曲げてしまったということが描かれています。
モンスターというよりは壮絶な幼少時代を過ごした可哀想な女性、としてみることもできますね。
社会からはみ出し、誰も手を差し伸べてくれなかった環境が作り出したモンスターです。
ゼルビーのおばさん
黒人を差別したり、売春婦であるアイリーンに関わらないようにゼルビーに命じるなど、精神的苦痛を与えるモンスターとして描かれています。