その連続性の真相こそが、犯人を浮かび上がらせることになります。この辺りが物語のハイライトといえるでしょう。
犯行現場に指名された一流ホテルにホテルマンに変身して潜入する刑事、その教育係であり相棒でもある女性フロントマン。
本作はサスペンスですが、主役二人の折りに触れたコミカルな味付けは映画全体に緊張感とゆとりの上手いバランスを生んでいます。
二人の出会いは、新たな事件の発生と、「仮面」を被って4度目の犯行の実行にホテルに乗り込んでくる犯人との対決の「仮面舞踏会」の開幕ベルを鳴らしたのです。
ホテルは「マスカレード・ホテル」に変貌。捜査官さえ仮装している...
真犯人の仮面は主役の二人によって剥がされるのか、はたまた他の要素で剥がれていくのか…中盤にかけてますます「舞踏会」の音楽は高鳴ります。
登場する怪しい客は豪華俳優陣
みんな怪しい
ホテルマンに扮した新田刑事以下、警視庁刑事が張り込む中、次々とホテルを訪れる客たちは、テレビ・映画界を代表する名優たち。
- 生瀬勝久
- 菜々緒
- 濱田岳
- 高嶋政宏
- 橋本マナミ
- 笹野高史
- 前田敦子
- 田口浩正
- 宇梶剛士
- 松たか子
- 勝地涼
なかなかの見応えです。前田敦子と勝地涼という本物の夫婦が新婚役として登場しているところもニヤリとしてしまいます。
そして彼らがみんな怪しい。
個性あふれる「怪演」が連続します。中でも最後まで演者が誰だか分かりづらい松たか子の怪演ぶりが光っていました。
一番「マスカレード」っぽい人物を探せば良い訳ですね。
真犯人は、かつて自分を捨てた男を追ってこのホテルに来たものの、山岸に守秘義務を盾に滞在情報開示を拒否され追い返されたことを逆恨みし、彼女を殺そうと老婆に変装し乗り込んできた片桐(本名・長倉=松たか子)という女。
当時山岸の拒否に遭い、悄然と冷たい雨の中をホテルの前に佇むうち流産してしまったのでした。この逆恨み、ちょっと飛躍が過ぎたと観た方も多いかもしれません。
しかし、山岸殺人未遂は2つの計画のうちの一つに過ぎず、自分を捨てた男も殺していて、その事件を曖昧にするという目的もあったのでした。
それが映画の冒頭で示される連続殺人事件でした。
つまり3件の殺人に関連性は無かったのです。そのあたりにも「マスカレード」という言葉が頭に浮かんできます。
松たか子演じる老婆片桐を巡っては映画の前半で、彼女は目が見えているのではないか?と怪しむ新田刑事と、あくまでも障害者を温かい目で見る山岸の間で論争があったのです。
これが観客を一旦真犯人探しから片桐を外すミスリードの役目をしています。
一つ惜しいな、と感じたのは濱田岳、高嶋政宏、宇梶剛士と菜々緒、生瀬勝久のパートが怪しくはあるのですが、本筋とは遠いな、とすぐ分かってしまう点です。
ホテルの苦労話の挿話に過ぎないオチに落ち着き、これを、サスペンスの伏線やミスリードに使えば観客の目はもっと混乱しただろうと思いました。
グランドホテル+バディムービー
二倍の面白さ誕生
本作は「グランドホテル方式」と「バディムービー」という映画の面白さを表現する二つの手法が合体している、まさに「面白さ二倍」の楽しみが堪能出来る映画となっています。
グランドホテル方式
映画表現の手法の一つに「グランドホテル」という形式があります。
これは1つのホテル(のような広い=大きな場所)が舞台となり、そこで犯罪(多くは殺人)や様々な問題が発生し、課題解決の過程で、宿泊している(関係している)人々の人間模様が描かれていくものです。
往年のハリウッドの名作「グランド・ホテル」からその名が取られました。「群像劇」とも言えるでしょう。
バディ・ムービー
友人や仕事関係のコンビが活躍する映画のことで、「リーサル・ウェポン」シリーズやフランス映画「最強のふたり」などを思い浮かべていただくと分かりやすいでしょう。